【抜粋訳:エレイサのダイアローグ p.9-より】
サンザシに止まってチュンチュン鳴いているスズメが好き。小川の水面にしな垂れるヤナギに、かわいらしい巣をぶら下げているヤナギムシクイが好き。それに、庭の石の上でチョコチョコ踊っているハクセキレイも大好き。シッポを上げ下げする姿は、なんだかいつも忙しそう。
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鳥の声もまねすることができる。そういう逸話も聞いたことがあるわ。もともと興味はあったのよ。なんだか自分が鳥だったかのような特別な気持ちもあるわ。鳥たちの春の群れに嬉しそうに混じって、枝から枝へ飛んでいたような、お日さまの光を浴びてピョンピョン飛び跳ねたり、嘴いっぱいにハエをくわえて巣へ運んでいったりしていたような。鳥の翼は、あたしにとって大きな不思議だと思う。嬉しそうに飛ぶことも、鳥の骨が空洞だということも不思議。鳥の骨は小さなフルートで、夜行性の鳥が奏でる音は嘴から外へフゥーと流れ出すんだと想像することもある。でも、カラスやウズラクイナの声にぷっつりと邪魔されて、骨から鳴き声が出るわけはないんだと思い知らされるの。
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つまり、あたしは鳥のことをよく知っていた。実際に、鳥たちには鳥の王国があるっていうことが分かったの。鳥の王国では、それぞれが自分の居場所を持っているの。あたしが言っているのは巣のことじゃなくて、鳥同士のヒエラルキーのこと。巣作りする方法は鳥によって違うの。でも、彼らは誰から教わるわけでもなく作ることができる。それぞれが自分のテリトリーを周りに作り出す必要があって、鳥によってはテリトリーがとても狭いものもいるし、すごく広いものもいる。タカとかワシなんかは、もっとずっと広大な森や深山を必要としているの。
それから、鳥たちには守護神がいるっていうことも分かったの。彼もハゲワシの一人よ。鳥の守護神が飛んでいる姿は一度も目にしことはないけれど、あたしは彼のことをハゲワシと呼んでいる。彼が大地を歩く姿は威厳があって、鳥というよりもほんとうに守護神を思わせるの。人間のような風貌なんだけれど、人間の血は引いていない。彼の姿は何度も目にしていたし、いくつもの鳥たちの群れを支配して、先導する立場に立っていた。つまり、鳥たちの王様ってところね。
彼があたしのことを知っているってことも分かった。
「また、あの子があっちからやって来るぞ!あの変わったエレイサだ!」と、鳥の守護神が言っているのを耳にしたことがあるから。
「エレイサって誰?」と誰かが尋ねると、守護神は「鳥を愛している少女だよ」と聞こえるように大きな声で言っていた。あたしは、ほんとうに鳥のことを愛していたし、多くの鳥がそのことを感じ取ってくれていたから、あたしは怖がられることはなかったの。
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あたしには、ほかの人にはない特別な力がある。鳥は、女の子なら誰のところでもやみくもに飛んでゆくわけじゃない。でも、あたしがその力を使えば鳥たちが寄ってくる。あたしの頭にはネットが張り巡らされているみたいだった。鳥たちは、鳥笛に逆らえないみたいに寄って来ずにはいられないの。いつも、あたしは大きい種や小さい種を両手に握って空へと差し出すのよ。
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事故が起こったあの日も、そんな感じだった。そして、あたしの辛くて恐ろしい旅が始まった。そのことを、今から話すつもり。
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