【抜粋訳: p.9, pp.13-14】
冬の夢
大地にかくれた青虫寝室
まっくらひっそり小さな部屋に
響いてよいのは
ねずみのぱたぱた足の音
ビロード毛布にくるまれて
すやすやぐっすり青虫一族
夢に見るのは
きらきら輝く蝶の羽衣
トンットゥってどんなの?
こぐまが夜中にめざめました。となりにトンットゥが立っていたんです!なんて小さくて、なんてほんわかあったかくて、なんて軽やかなんでしょう!
「おりこうさんでね!」
トンットゥはこぐまに小さな包みを差しだしました。
「うん」
こぐまはとっても戸惑いました。毛むくじゃらの胸のなかで、おりこうさんだった自分をおもい、心のなかに小さな温かい光がともりました。
トンットゥは口に指をあてました。「しずかに」というひみつの言葉です。ほかの動物たちは緑の枝をあおぐようにぐっすりと寝入っています。外は音が冴えるような月の光であふれていました。
こぐまは、音も立てずに軽快に動くトンットゥをじっと見つめておもいました。魔法のフェルト靴でもはいているのかな?トンットゥには綿毛のようにかすかなあごひげがあり、そこから、えくぼがきらりとのぞいています。
あたりには、こぐまの鼻がむずがゆくなるほどシナモンとジンジャーの匂いが立ちこめています。
「はっくしゅん!」
その声にトンットゥはびくっとしましたが、だれも起きてこなかったので、ひみつの仕事にうちこみました。大きなかごにするりと滑りこんで、あれこれ包みをさわり終えると、顔をあげました。
トンットゥの5本の指先には、小さくてかわいらしい包みがぶらんと揺れています。その包みは、銀色のリボンで結ばれていました。きっと月の光でひもをつくったんだと、こぐまはおもいました。包み紙には空の星たちがきらめいています。トンットゥは針葉でできた枕の下に包みを滑らせるように入れていきました。あまりに巧みな手さばきに、めざめる動物は一匹もいませんでした。
りすは高らかにいびきをかき、足をぶらぶら揺らしています。はりねずみは深い眠りに落ちていて、幸せなクリスマスの夢を見ています。のうさぎは眠りながらぴくぴくと長い耳を動かして、星の歌を聴いているかのようです。てんのおじょうさんは、いいにおいのするねずの枝に顔をうめて、寝息をたてています。
トンットゥは包みをくばり終えると、しばらく月の光をあびて、眠っている動物たちをじっと見つめました。そうして、最後にくまのところに包みをおくと、ふたたび指を口にあてて、こぐまにちらりと目をやって姿をけしました。雪面に足跡ひとつ残さずに。
けれど、朝になっても、その奇跡はきえませんでした。
「トンットゥがきたよ!」と、うきうきしているりすに、こぐまは言いました。
「ぼく、この目でみたよ!」
「どんなだった?」
りすの質問に考えこみました。なんて言ったらいいのかむずかしくなりました。だって、トンットゥは頭のなかからもするりとすぐに抜けだしてしまったからです。
「トンットゥは、トンットゥはあかるい人だよ・・・」
「あかるいんだ」
「それに、いい人だよ」
「いい人なんだ」
「トンットゥはあかるくていい人なんだ」と、てんのおじょうさんも聞き返しました。
てんのおじょうさんはまだトンットゥも目にしたことがなく、プレゼントももらったことがないのです。
「トンットゥはとってもしずかで、あったかいんだ」と、こぐまが熱心に説明します。
のうさぎは気になって包みを振ってみました。
「すごい!それしか言えない!」と、りすがふうっと息をもらします。
りすも包みを耳のそばまで持ちあげて、揺らしました。
「いったいなにが入っているんだろう?」
りすは不思議におもいながら、ふたたび振りました。
包みのなかからは、透きとおるほど冴えたクリスマスの音が聞こえました。
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