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Vladimirin kirja    原書名:  Vladimirin kirja
 (ウラジーミルの本)
 作者名:  Hannele Huovi, 1949~
 ハンネレ・フオヴィ
 出版社 / 年:  TAMMI / 1988
 ページ数:  258
 ISBN:  978-951-30-9769-1
 分類:  児童小説
 備考:  Ihme juttu!
 Jättityttö ja Pirhonen
 Urpo ja Turpo Villissä lännessä
 Ahaa! sanoi Pikkuruu
 Karvakorvan runopurkki
 Taivaanpojan verkko
 Miinalan Veikon nyrkkeilykoulu
 Suurkontio Tahmapää
 Suurkontio Tahmapää rakentaa
 Gepardi katsoo peiliin
 Vauvan vaaka
 Maailman paras napa
 Matka joulun taloon
 Höyhenketju
 『羽根の鎖』

【要約】

辺境の小村に木こりの息子として生まれたウラジーミルは、ある日とつぜん、父に先立たれ、母の細腕一つで立派な青年に成長します。唯一の財産である白い馬を大公に売って家計を支えてきた母も、ついに病に伏せ、病床で思いがけずウラジーミルは自分の生い立ちを知ることになります。父は村の領主であるウラジーミル大公の皇子であったこと、温厚な兄ルカの許嫁を白馬に乗って略奪したこと、その許嫁が母であったこと、はからずも自分が大公の血を引く者だったこと。自分は何者なのか、これからどこへ行き、何を探せばいいのか、ウラジーミルは悩みますが、類い稀なる治癒能力と予知能力を持つ森の魔女の助言を受け、「大いなる知を求めて」森を離れ、旅に出ます。

あてどなく、道なき道を歩き、村々で物語を語りながら放浪していましたが、あるとき、大公一行に出会い、美しい茶色い巻き毛の大公の末娘アンナ=ソフィアにウラジーミルは心惹かれます。まともな服を着て宮殿を目ざそうと、ウラジーミルは馬の世話をする下男として、同い年のティモフェイと住みこみで働くようになります。もの静かなウラジーミルとちがって陽気で愛想のよい端正なティモフェイは、下女の娘ドゥンヤや主人の娘カテンカの気を引き、ウラジーミルにとっても魅力的なかけがえのない生涯の友となります。

その年の冬は、これまでにない厳しい寒さでした。ある日のこと、餌を求めに村までやって来た狼に主人とウラジーミルの乗ったソリが襲われます。やむなく馬を殺め、難を逃れようとしますが、それでも執拗に追ってくる狼に窮していた二人は、長いマントをはおった男に救われます。はたして、これが吉凶の予兆だったのか、男は盗賊に襲われたと人づてに聞くことになります。それから数ヶ月経った夏至の晩、ティモフェイがカテンカに手を出したことで、主人に殺されかけました。かつての美しい顔は見るかげもなく、瀕死のティモフェイを、ウラジーミルとドゥンヤはかいがいしく看護しました。しかし、ティモフェイはやがて姿を消し、ドゥンヤも後を追うように失踪しました。

ウラジーミルは喪失感を抱きながらも下男の契約期間を終え、修道院の台所係になりました。大公一行のために七面鳥の処理をしていたウラジーミルは、森で出会い盗賊に襲われたと伝え聞いていた男と再会します。男は、森の奥深くに分けいって修行をしていたセラフィム神父でした。捕らえられた盗賊団を前に、処罰するどころか、すべてを許し、衣服まで分け与えたセラフィム神父のふるまいに、ウラジーミルは心動かされます。再会を果たしたのは、セラフィム神父だけではありません。一行のなかにアンナ=ソフィアもいて、ウラジーミルは自分の身の上に起きたことを話し、今度は皇子として会いに行く、と約束して別れます。

三週間の修道院での仕事を終え、今度は町のパン屋で住みこみの調理補助として働くことになりました。ウラジーミルは、行方がわからなくなっていたティモフェイとドゥンヤの生存をあきらめきれずに、夜は場末の港町まで足を伸ばして探しに出かけていました。浮浪者や売春婦が徘徊する混沌としたなか、ウラジーミルは、ようやく二人を探しだしました。ティモフェイは水夫になり、自分がどんなふうになろうとも変わらず愛してくれたドゥンヤと一緒になっていました。二人に男の赤ちゃんが生まれたものの死産し、ティモフェイは家に留まることなく船に乗り、ウラジーミルはすべてを知っているであろうルカ大公を訪ねる決意をしました。

宮殿の厩で、昔、手放してしまった白い馬と再会し、ルカ大公とも謁見できました。母が語ってくれた話は本当でした。父はルカの兄で、ルカの許嫁だった母と恋に落ちたのでした。ルカ大公は、穏やかにウラジーミルを受け入れ、皇子としての教育が始まりました。大公妃はすでに亡くなり、ルカ大公には皇女しかいませんでした。兄ができて喜ぶ者もいれば、遺産相続を気にする者もいました。しかし、ウラジーミル自身、違和感なく皇室の生活になじんで堂々とふるまいました。アンナ=ソフィアとも約束通り皇子として再会し、プロポーズをしてお互いに誓い合いました。その大胆な行動に、ルカ大公には父親似だと言われながらも、ウラジーミルはアンナ=ソフィアと結婚することになりました。

ウラジーミルは、しだいに皇帝の信望と信頼を得るようになりました。ウラジーミル自身も国のために公務に励み、過去の文献や資料を熱心に調べ、役立つ情報を収集しました。しかし、すべてが頭のなかで解決できないことを知り、ウラジーミルの足はふたたび港町へ向かいました。港町は貧困にあえぎ、絢爛豪華な宮廷生活とはかけ離れていました。久しぶりに訪ねたドゥンヤには生気がなく、ティモフェイは腸チフスで亡くなっていました。ティモフェイの死とともにウラジーミルのなかで青春が終わり、新たな生が始まりました。アンナ=ソフィアが子どもを授かったのです。事情を知ったアンナ=ソフィアは、ドゥンヤをベビーシッターとして引き取ることにしました。

ウラジーミルは、息子ミーロンの誕生を戦地で知りました。国境をめぐって戦争が勃発し、ウラジーミルは戦線で手柄を立て、率いる部隊を勝利に導き、三年後に英雄として帰還します。皇帝主催の祝宴も、贅沢な暮らししか知らないアンナ=ソフィアとの会話も、ウラジーミルにとって現実離れした世界として見えてくるようになりました。戦争で目の当たりにした残酷な行為と悲惨な光景が、ウラジーミルの心に拭いきれない暗い影を落としていました。形なき権力のためになぜ争うのか。境界線とは外になく私たちの内にこそあるものではないのか。虚飾的で形式的な宮廷生活からも、アンナ=ソフィアからも、息子ミーロンからも、ウラジーミルの心はますます離れていきました。

ある日、刑務所を訪問したウラジーミルは、魔女と呼ばわれていた女と再会します。よかれと思って使ってきた超能力ゆえに、女は死刑判決を宣告されていました。恩赦を乞われつつも、実権のないウラジーミルは助けてあげることができません。女は最後に、ウラジーミルに知恵を授けるものは鏡であると言い残します。ウラジーミルは、その言葉の意味を知るために、セラフィム神父を修道院に訪ねました。しかし、いくら待っても、なんど訪ねても、神父は面会してくれません。ようやく、セラフィム神父の向けた背は、ウラジーミル自身が人々にしてきた行為そのものだったことに気づきます。ウラジーミルは、みずからの態度を省みながら、生まれ故郷の村に立ち寄り、墓参りをしました。そこで、幼少時代の家は戦争で炎上したことを知り、前に進むしかないと決意します。

すべてのことに光と影があり、人はすべてを一人で完璧にできるわけではありません。人は一生のなかで多くを学びます。息子の成長の一瞬の感動を見逃さないためには、どんな対話であれ中断しなければならないように、何かをするときには、経験した多くから選択し、前へ進まなくてはなりません。そして、いつも他人の眼差しのなかに自分の姿が映るのだということも、忘れてはなりません。  アンナ=ソフィアに先立たれたウラジーミルは、森にこもって隠遁生活を送ります。そして、本書を息子ミーロンに書き残しました。

文 末延弘子 ハンネレ・フオヴィ著『ウラジーミルの本』(1988)より


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