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Maukka ja Väykkä rakentavat talon    原書名:  Maukka ja Väykkä rakentavat talon
 (マウとバウの物語③ あたらしい家)
 作者名:  Timo Parvela, 1964~
 ティモ・パルヴェラ
 出版社 / 年:  Tammi / 2010
 ページ数:  107
 ISBN:  9789513155490
 分類:  児童書
 備考:  Maukka, Väykkä ja mieleton lumipallo
 Maukka ja Väykkä
 Onnenpyörä
 Hilma ja täydellinen lemmikki / Hilma ja hyvä harrastus
 Karuselli
 Ella ja kaverit 1-3
 Keinulauta
 Ella aalloilla
 Sanoo isä

【要約】

猫のマウと犬のバウの空色の家は、空と森をわかつ丘の上にありました。ところが、昨年のクリスマスプレゼント事件で家は丘をすべり落ち、数ヶ月かけてようやく丘の中腹まで持ち直しました。春めく四月、雪はついに解け、家は斜めに傾いたまま動かせなくなりました。このまま冬が来るのを待つか、家を解体して丘の上に組み立てなおすほか手はありません。雪はとうぶん降らないでしょうし、組み立てなおすにも、マウが手伝わないことを考慮に入れるとひと夏かかってしまうでしょう。

マウは、こんな斜めの暮らしに耐えきれず、むりやり春を止めることにしました。しぶる仲間たちに協力してもらって、太陽をだますことにしたのです。バウは厚着をし、ロバのオインクヴィストは落葉を掻き集めるふりをし、ウシのムーッコネンは農具にカバーをかけ、ヤギのカカティンはきのこ狩りに出かけました。けれども、自然の摂理には逆らえず、皆、上着を脱いで、春の作業に取りかかりました。それでもあきらめきれないマウは、バウに家の解体を急かします。誰かが加勢してくれれば仕事もはかどると言うバウに、マウは村の仲間に声をかけて回ります。けれども、猫の手も借りたいくらい忙しいと断られます。マウは皆に家の解体作業を手伝ってもらいたいばかりに、バウを皆の加勢に行かせます。自分だけが必死になって働いていることに割り切れなさと憤りを感じたバウは、手伝うのを止めました。

さすがのマウも自分も何かしなくては悪いと思い、選りすぐりの自分の肖像画を手放すことにしました。マウは、売ったお金で助っ人を雇って、アトリエと塔のついた大きな家を建てたいと夢見ていました。本当は自分の腕に自信はなかったのですが、バウには自分の絵は価値があって高く売れると大きく言っていました。マウがかたくなに肖像画を梱包したまま町の市場で売る様子を、バウはおかしいと思いながらもマウの言葉を信じました。たとえ金持ちのヘラジカ夫人に見せてほしいと言われても見せることはなく、けっきょく絵は一枚も売れませんでした。

バウはこつこつと解体作業をつづけました。マウの塔は、家の設計の見直しや資材不足のために見送られました。それでもマウは塔をあきらめきれず、バウが同じ場所に同じ家を建てている隙に、ベランダの板をこっそり使って自分だけの塔を建てました。それは窓も屋根もない櫓のような塔でした。

バウは秋になる前にベランダを残して家を完成させますが、マウは意地を張ってもどりませんでした。秋の夜は凍えるように寒く、バウはマウのことが心配でたまらず、眠れなくなりました。マウも寒さと寂しさに耐えかね、暖をとりに家にもどってきました。そして、二人は残ったベランダをいっしょに立て直し、家が完成しました。

【抜粋訳: pp. 102-105】

 暗い庭のむこうからカスタネットの音が聞こえてきます。情熱的に激しく打ち鳴る音は、祭り囃子のようにも聞こえましたが、楽しそうではありませんでした。ギターの弦も太鼓のスティックも踊り子たちの歓声も聞こえません。ただ聞こえてくるのは、氷点下に響くさみしいカスタネットの音だけです。それは寒さでカチカチと音を立てるマウの歯でした。
 バウはその音を暗いベランダで聞いていました。居間のストーブは誘うように赤々と燃えていましたが、バウは中に入ろうとしませんでした。友だちが外で凍えているのに、自分だけが火にあたるなんてできなかったのです。今すぐにでも塔に駆けだして、マウを家の中に連れこみたいきもちでいっぱいでした。ただ、それがたとえ友だちのためであったとしても、むりやり引っぱってきては意味がないということもわかっていました。
 午前零時を回るころ、うっかり眠ってしまったバウは、はっと目が覚めました。外はすっかり氷点下になり、星はずいぶん下へおりてきていました。星はさえざえと光って痛いくらいです。あたりは凍りついたようにしんと静まりかえり、マウの歯の音はもう聞こえませんでした。
 バウはあわてて飛び起きました。最悪の事態が脳裏をよぎったのです。番犬の本能が一瞬ゆるんで、眠りこけてしまったすきに、マウは凍えてしまったのです。バウは心配でたまらず空を見あげてウォーンと遠吠えしました。そして、まさに駆けだそうとしたとき、玄関がかすかに音を立てて開きました。目の前にあらわれたのは、湯気をたてたコーヒーカップが二つのったお盆でした。お盆を差しだしたのはマウでした。マウは落ち着きをはらって笑みすら浮かべて立っています。
 動揺をかくせないバウに、マウは二杯めをつぎました。二人は未完成のベランダに腰をおろして、コーヒーをゆっくりと飲み、月明かりに照らされた景色をながめました。すると、マウがそっと切り出しました。
「ぼくがまちがってた。正直って、思っていることをぜんぶ言うことがじゃないんだね。それよりも何を言うのか考えることのほうが大事なんだ」
 バウはだまって聞いていました。
「それをね、言いにきたの」マウはカップをあおってくいっと飲みほすと、立ちあがりました。
「えっ、行くの?」バウが聞きました。
「もちろん!」マウはとってつけたように元気よく答えました。
 バウはわかったというふうにうなずきました。
「でもね、何か手伝ってほしいことでもあれば別だけど・・・」
 マウはもじもじしながら口ごもりました。
 バウは首をふってこう言いました。
「家のことならだいじょうぶ。あとすこしで完成だから」
「そう、そうだよね」マウはうなずいて、くるりと背をむけました。
 霜をふんで去ってゆくマウの後ろ姿を見ながらバウは言いました。
「でも、友だちが必要なんだ」
 マウはぴたりと足をとめ、ふりかえりました。
「どんな?」
「わかんないけど、ぼくとはちがう友だち」
「ぼくみたいな?」
「かもね」
「ぼくって、家もたてられないし、うっとうしいときもあるよ」
「ぼくは、ふつうのことしかできないし、つまらないよ」
 マウはにっこりほほえみました。バウもそれにこたえました。
「ねえ、それじゃあ、ぼくといっしょに塔をたててくれるの?」
 バウはきぜんと首をふりました。
「それでもぼくらは友だちだよ。マウ、ベランダの板を返してくれるかい?いっしょに完成させよう」
「えっ?今から?」
「そうだよ。家もぼくらもたてなおすもってこいの夜なのに、マウにはそれよりもっと大事なことでもあるの?」

文/訳 末延弘子 ティモ・パルヴェラ著『あたらしい家』(2010)より


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