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Onnenpyörä    原書名:  Onnenpyörä
 運命の輪
 作者名:  Timo Parvela, 1964~
 ティモ・パルヴェラ
 出版社 / 年:  WSOY 2010
 ページ数:  74
 ISBN:  9789510367179
 分類:  児童書
 備考:  Maukka ja Väykkä rakentavat talon
 Maukka, Väykkä ja mieleton lumipallo
 Hilma ja täydellinen lemmikki / Hilma ja hyvä harrastus
 Karuselli
 Maukka ja Väykkä
 Ella ja kaverit 1-3
 Keinulauta
 Ella aalloilla
 Sanoo isä

【要約】

小さなくまのピーにはアルゴンという友だちがいます。ある風の強い日、リンゴの木の下で二人はリンゴを眺めていました。けれどもリンゴはたった一つしかありません。風はどちらへリンゴを落としてくれるのか、ピーは考えました。ところが、アルゴンは、どちらにリンゴが落とされてもピーにあげるつもりでした。なぜなら、ピーがリンゴを好きなことを知っていたからです。
「リンゴはピーにあげようと思ってたんだ。だって、ピーはリンゴがぼくよりも好きだろ?どう?おいしい?」
「うん」
「よかった。だったら、ぼくは幸せだ」
 カモメになれなかったカモメ鳥は、岩の上で椅子に座ってカモメの群れを眺めていました。すると、波に揺られて流されているボトルメールを発見します。それは、飛べないサギの小さなウンニが、南に渡った友だちの大きなオンニに宛てた手紙でした。
「オンニ、かえってきて!ぼくね、たいせつな話があるの。ウンニより」

 カモメ鳥はサギの大きなオンニを知っていました。そこで小さなウンニのためにボトルメールを届けようと決心します。ピーとアルゴンはシーソーを漕ぎながら、ひとり寂しく大きなオンニを待ち続ける小さなウンニをかわいそうに思いました。ピーは、かつてアルゴンからもらった幸運の石をあげると、小さなウンニはこうつぶやきます。

「でもね、せつなくなればなるほど、幸せな気持ちになるの」

 そのとき、カモメ鳥がカモメの力を借りて大きなオンニを連れてやってきました。小さなウンニと大きなオンニは再会し、ウンニはたいせつな話を打ち明けました。それは、オンニと南へ飛び立つことでした。でも、ウンニは飛べません。カモメ鳥の空飛ぶ椅子に乗り、サギの力を借りて、ウンニはオンニと旅立ちました。
 本書は、ティモ・パルヴェラの哲学的思索に富んだ三部作の最終巻です。友情と孤独について小さなくまのピーは第一弾『シーソー(Keinulauta)』(2006)で語り、続く第二弾『Karuselli(メリーゴーランド)』(2008)では飛べないサギの小さなウンニが大きな時間と成長を経験し、第三弾ではピーやウンニが幸せについて考えます。
幸せは、他の人の幸せを通じてこそ幸せになれる、そんなことを知る一冊です。

【抜粋訳: pp.16-20】

ピーはリンゴが大好きです。いちばんの友だちにすら打ち明けられないくらい、大好きでした。リンゴはほしいけれど、手に入れるための手段にしたくありませんでした。それはずるいことだとピーは思いました。
(アルゴンはどう思うだろう?)
 ピーは、うるんだ目で木になっている真っ赤なリンゴをあおぎました。熟れて食べごろのリンゴはあまりに美しく、リンゴのことがほんとうにわかっている人こそが食べるべきなのかもしれない、とピーは思いました。でも、そんなことは口に出せません。
(きみには食べる価値がないなんて、友だちに言えないよ)  ピーは、自分の考えがこわくなって、ぎゅっと目をつむりました。でも、すぐにまた目を開けて、リンゴがまだあるかどうかたしかめました。
(まだある)
 アルゴンもリンゴが好きでした。おいしいし、食べごたえもあります。でも、それだけです。風は、どちらにリンゴを落とすのか、運命の輪のようで楽しみでした。どちらかが勝って、どちらかが負ける。それだけのことです。アルゴンもドキドキしていました。
 嵐の暗い目がリンゴをとらえると、まっしぐらに森をぬけてやってきました。木々はぐわんとたわみ、針葉は逆だち、白樺の葉は最後の一枚まで風に吹き飛ばされました。ピーもアルゴンもリンゴに気をとられて、ちっとも気づいていません。
 風は、リンゴの木がある丘の斜面を削るように勢いよく、波のように押し寄せました。風に髪はひるがえり、目が痛くなって涙が出てきました。リンゴの木は一瞬揺れてしなったかと思うと、おどろいて飛び立つ鳥の群れのように、すべての葉っぱが空に舞い散りました。
 それでもリンゴは木にぶらさがっていました。ゆらゆらと大きく揺れながら、まだぶらさがっています。
 ピーはごくんと息をのみました。
(もう待てない。ここで逃げちゃえば、リンゴがどっちに落ちるか知らなくてすむ。アルゴンのほうにリンゴが落ちたら、ぼく、立ち直れないや)
 ピーは立ち上がりました。アルゴンはおどろいてピーをふりむきました。アルゴンが声をかけようとしたとき、嵐が走りぬけ、ピーを宙にほうり投げました。リンゴの木がなかったら、ピーはそのまま突風にさらわれていたでしょう。ピーは幹にぶつかったあと、もとの場所にそのままなだれ落ちました。
 ピーは、風でちぎれたリンゴを抱いていました。
 嵐が去りました。嵐は、やるべきことをやり終えてすでに遠ざかり、ただしずかな余韻だけが耳に響いています。
 ピーは、腕のなかにあるリンゴを信じられない思いで見つめました。
「おめでとう。ピーの勝ちだ」そう言いながらも、アルゴンの声はしずんでいました。
「立ち上がったのはわざとじゃないからね。こんなことになるなんて」ピーはあわてました。
 アルゴンは大きく息をつきました。
「はんぶんこしようか?」ピーは気まずそうに聞きました。
「そんなことしなくていいよ。もう終わったことなんだから。いずれにしても、リンゴはピーにあげようと思ってたんだ。だって、ピーはリンゴがぼくよりも好きだろ?」
 ピーは一口かじりました。熟れすぎて粉っぽく、味がありません。
(あんまりおいしくないや)
「どう?おいしい?」アルゴンが聞きました。
「うん」
「よかった。だったら、ぼくは幸せだ」
 アルゴンはうれしくなって、負けてがっかりしていた気持ちもどこかに消えていました。
「うん、ぼくも」ピーは言いました。

文/訳 末延弘子 ティモ・パルヴェラ著『運命の輪』(2010)より


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