【抜粋訳:pp.22-24】
「さあ、釣り糸を投げなさい」と、案内人が命令しました。
もちろん、みんな投げました。トゥーッカは、わたしたちのなかでもいちばん遠くまで投げました。10メートルくらいは飛びました。わたしとハンナは7メートルで、ティーナは6メートルでした。プカリは投げるそぶりすらみせません。投げることになるなら、みんなを浮きにぶん投げてやると、おどしています。サンッパの投げた釣り糸は、海までとどかずに、案内人の背中にぶつかりました。ちょうど、そのとき、パテの釣り針に最初の魚が引っかかりました。
魚はとてもおかしなかたちをしていました。靴底みたいにぺちゃんこで、ぎろりとにらみをきかせています。
「パンクしてる。どうやって空気を入れたらいい?」と、パテが傷ついた様子で案内人に聞きました。
「それはヒラメです。ですから、ぺちゃんこでいいんです」と、案内人はおっくうそうに答えました。
「うそだ。パンクしたんだ」と、パテが言いました。
もちろん、わたしたちも案内人の言ったことが信じられなかったので、先生に聞きに行きました。
「パンクしちゃったね。釣り針で穴が空いちゃったんだ。釣り針をつけずに釣りをすれば、ぷっくり丸いヒラメがとれるんだよ」と、先生は説明すると、魚をやさしく海に帰しました。すると、魚は身をひるがえすようにすいっと泳いで、石の陰にかくれました。
「この子のお母さんが穴を埋めて、また空気を入れ直してくれるよ」と、先生はパテをはげましました。パテは、ヒラメの運命がちょっと気になっていたからです。
(・・・)
「子どもたちに童話を語るなんて、わたしは同意しません。ありのままの事実こそが精神をきたえるのです。子どもはつらい現実であってもそのまま受け入れるべきです」と、案内人が先生に言いました。
「ぼくはその反対で、童話が大好きなんです。童話がなかったら、直球勝負の子どもたちやつらい現実には耐えきれないな」と、先生は言いました。
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