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Heinähattu, Vilttitossu ja kielletty kampela    原書名:  Heinähattu, Vilttitossu ja kielletty kampela
 麦わら帽子のヘイナとフェルト靴のトッスの漂流記―危険なヒラメ釣り
 作者名:  Sinikka Nopola, 1953~ & Tiina Nopola, 1955~
 シニッカ・ノポラ&ティーナ・ノポラ
 出版社 / 年:  TAMMI / 2005
 ページ数:  107
 ISBN:  9513134121
 分類:  児童小説
 備考:  2006年度 プラッタ賞受賞作
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【要約】

カッティラコスキ家の母、ハンナの創造力がふたたびぐるぐると回り始めたようです。今回は、じぶんの瞳の色と同じものを食べて健康で穏やかな毎日を送ろう、と言い出したのです。フェルト靴のトッスにはグリーンピース、麦わら帽子のヘイナにはブルーベリースープ、薄い色の目をした父のマッティには若いモミの針葉エキスゼリー、そしてハンナ自身にはチョコレートケーキがおすすめ料理だというのですが、ハンナを除いて、みんな浮かない表情です。続いて、みんなに食べられないものが告げられると、トッスとヘイナは不満を爆発させました。なかでもトッスは、禁止させられたヒラメを食べようと、ヘイナと一緒に無断でボートに乗ってヒラメ釣りに湖へ出かけてしまいます。ところが、途中で浅瀬の葦にボートが座礁したり、片方のオールを湖に落としたり、雷雲が発生したりして、ボートは無人島に漂流したのでした。

どうやら漂着した島は「隠者の島」でした。何百年も前に島の洞窟で生活していた隠者が、お化けとなってみんなを怖がらせているという、いわくつきの島です。ヘイナは『ロビンソン漂流記』(ダニエル・デフォー)を思い出しながら、工夫を凝らしてなんとか脱出しようと試みます。そんななか、トッスは禁止されたヒラメ釣りに無我夢中で、事の重大さに気づきません。

事の重大さに気づいたハンナとマッティは、警察と消防を巻きこんで、「食事つき救出オペレーション(レベル中度)」を実施しました。ハンナは自ら水着に着替え、でぶっちょ警官とハリセはあらゆる手作り料理を携えてゴムボートに乗り、定員オーバーで入りきれなかったひょろめがね警官とヘルガはアリプッラ姉妹の家で待機しているものの、捜索は遅々として進みません。しかも、でぶっちょ警官はハリセの手作り料理が食べたくて、プロポーズしてしまうのです。

ヘイナの思いつきで流したボトルメールがきっかけで、二人は無事に発見されるのですが、またもや一混戦。はたして、隠者はほんとうにいるのでしょうか?ハリセはでぶっちょ警官のプロポーズを受けるのでしょうか?そして、トッスは念願のヒラメを食べることができるのでしょうか?「麦わら帽子のヘイナとフェルト靴のトッス」シリーズ第11弾。

【抜粋訳:pp.50-53】

フェルト靴のトッスはボート小屋の隅っこで縮こまっています。麦わら帽子のヘイナは、ロビンソン・クルーソーがいかだを作って島から脱出したことを思い出しました。
"でも、わたし、いかだなんて作れないわ。それに、トッスだって役に立たないし"
すると、小屋の棚の上にある小さな段ボール箱にふと目がとまりました。ヘイナはつま先立って、箱に手を伸ばしました。
「トッス、見てよ。開けてみようか?」
「もし、それが"いんじゃ"のだったらどうするの。開けちゃったら、あたしたち怒られるよ」と、トッスが泣きべそをかいています。
「ちょっとのぞいてみるだけよ。こんなことで、だれも怒ったりしないわ」
そう言うと、ヘイナは段ボール箱の蓋をほんの少しもち上げました。
「ねぇ、古ぼけたガラス瓶があるわ。錆びた釘が二本くらい入ってるけど、どうしようか?」
「どうにも。せめてボトルだったら、ボトルメールを送れたのに」
「じゃあ、ガラス瓶メールを送ってみてもいいんじゃない?」
すると、トッスは瓶をつかんで、蓋を開けると、なかから釘を取り出しました。
「送ろう!」と、トッスはうれしそうにヘイナを見て言いました。
「そうしよう!でも、書く紙はどうするの?ペンだって、わたしたちもってないわ」
「釘で彫ろうよ!」と、トッスが提案しました。
「でも、どこに彫るの?」と、ヘイナは驚いています。
すると、トッスは小屋から飛び出して、白樺の樹皮をひんむいてきました。
「むいちゃだめなのに」と、ヘイナは青ざめています。
「もうむいちゃったよ」と、トッスは言うと、樹皮の一片に釘で文字を刻もうとしています。「ト」という文字を彫りはじめた途端、樹皮が破れてしまいました。
「なにを彫ろうとしたの?」
「じぶんの名前だよ」
「それがなんの役に立つの?今いる場所の名前を彫らないとだめよ」
すると、ヘイナは地面から厚みのある樹皮の破片を見つけて、こう言いました。
「これで試してみましょうよ!」
ヘイナは釘で慎重に四文字を彫りました。
「いったいなにを彫ってるの?」と、トッスが不思議そうにのぞきこむと、声にだして読みあげました。
「か・ん・じ・ゃ。なんで、"かんじゃ"って書いたわけ?」
「"かんじゃ"じゃなくて、"いんじゃ"よ。ほんとうは、"いんじゃの島"って彫らないといけないんだけど、"島"まで入りきらないわ」
「じゃあ、送ろうよ。あたし、もう家に帰りたい。ヒラメは釣れなかったけど」
「どっちが瓶を投げる?」
「あたしが投げる」と、トッスは言うと、湖に瓶を投げました。
瓶は波に揺られて勢いよく弾んでいます。
「これでよし。もうすぐ助けがくる」と、トッスが言いました。

文/訳 末延弘子 シニッカ・ノポラ&ティーナ・ノポラ著『麦わら帽子のヘイナとフェルト靴のトッスの漂流記―危険なヒラメ釣り』(2005)より


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