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Risto Räppääjä saa isän    原書名:  Risto Räppääjä saa isän
 リストにお父さんがやってきた!?
 作者名:  Sinikka Nopola, 1953~ & Tiina Nopola, 1955~
 シニッカ・ノポラ&ティーナ・ノポラ
 出版社 / 年:  TAMMI / 2011
 ページ数:  104
 ISBN:  9789513151478
 分類:  児童小説
 備考:  Risto Räppääjä ja kuuluisa Kamilla
 Heinähattu, Vilttitossu ja kielletty kampela
 Heinähattu ja Vilttitossu joulun jäljillä
 Heinähattu, ja Rubensin veljekset
 麦わら帽子のヘイナとフェルト靴のトッス ―なぞのいたずら犯人―
 トルスティは名探偵 ヘイナとトッスの物語2
 へイナとトッスのクリスマス―フィンランドからのおたより―
 へイナとトッスからの手紙―講談社 青い鳥文庫

【要約】

ラウハおばさんと暮らしているリストにはお父さんがいません。お母さんは世界をまたにかけて活躍する研究者で、お父さんはリストが小さいころに交通事故で亡くなりました。でも、リストはあたらしいお父さんがほしいとは思っていません。ところが、ラウハおばさんの誕生日にケーキ作りに腕を振るうリストを見て、頭の固い親戚のエルヴィおばさんは、男の子らしくない、と嘆きます。男の子というのはスポーツでもして外で遊ぶものなのに、リストは女の子のように家でお菓子を作っています。こうなったのは女性に囲まれて育ったせいだ、とエルヴィおばさんが言いだしました。

そこで、ラウハおばさんは、リストのお父さんにふさわしいスポーツマンタイプの父親モデルを新聞で募集します。翌日から父親モデルの面接が始まりましたが、なかなかピンとくる候補者はいません。リストはスポーツよりもドラムを叩いたりお菓子をつくったりするほうが好きだとなんども言うのですが、ラウハおばさんは聞く耳をもちません。リストのことやラウハおばさんの浮かれ具合を案じたミスター・リンドベリは、自ら変装して父親モデル候補に名乗りでました。

レンヌ・レフムスマキと名乗ったミスター・リンドベリはグローブにヘルメットをつけて、リストをアイスホッケーに魚釣りにと、外へ連れだします。リストには自分がミスター・リンドベリだということを打ち明けましたが、やがて二人の行動を不審に思ったエルヴィおばさんやネッリにも正体を明かして事情を話します。

ミスター・リンドベリは若いころ、アイスホッケーをしていました。でも、自分にむいていないことに気づいてやめました。それよりも、切手収集のほうが楽しく、自分らしくなれます。これをラウハおばさんに伝えたいのですが、自分を偽ってスポーツマンのレンヌとなってしまった手前、後に引けなくなってしまいました。ラウハおばさんを傷つけないためにレンヌになったりミスター・リンドベリになったりする二重生活が、しだいに苦しくなってきます。

ラウハおばさんは、知的なスポーツマンのレンヌにぜひとも父親モデルをこのままやってほしいと願い、町の親子大会にレンヌとリストを出場させます。競技種目はみのむし競走です。父親は麻袋に入って跳びはねながらゴールを目指し、子どもは父親の後について声援を送ります。エルヴィおばさんのアイデアで、レンヌことミスター・リンドベリはゴールテープを切って表彰台に立たずにそのまま姿を消しました。

レンヌの置き手紙には、リストはもう一人前の男の子になったので自分の役目は終わった、と書いてありました。レンヌのことを名残惜しく思いながら、皆はフレンチトーストパーティを開きます。エルヴィおばさんは、あまりによくできたリストのフレンチトーストに舌鼓を打ち、男の子らしくない、と言った発言を撤回します。男の子だってお菓子作りが趣味でもいいのです。自分が自分らしくいられる自由は、正直であることと共感することなのかもしれません。

【抜粋訳:pp.65-67】

 リストとミスター・リンドベリは近くの釣り場まで自転車を走らせました。ラウハおばさんやエルヴィおばさんにうっかり見られてもいいように、ミスター・リンドベリは虫除けネットをかぶって釣りをしています。
「バレなくてよかったあ」  リストはほっとしたようですが、ミスター・リンドベリは浮かない顔をしています。
「わたしはレンヌか」
「リンドベリおじさんでもあるよ」
「なんだかわたしの半分がちがう人みたいだよ。ラウハもミスター・リンドベリのことはもうどうでもいいんだろう。ミスター・リンドベリがストックホルムに旅行に行っても、ちっとも残念がらなかったしね」  リストはミスター・リンドベリをしばらく見ていましたが、やがてこう言いました。
「でもリンドベリおじさんはリンドベリおじさんだよ」
「ああ、そうだね」
「レンヌのほうがいいの?」
「さあ、どうだろう。そうかもしれない。レンヌには仲間がたくさんいるし、やることもたくさんある。ところが、ミスター・リンドベリはいつもだいたいひとりぼっちなんだよ。ひとりで食事を作って、ひとりで食べて、集めた切手を整理して、ベランダで午後のお茶をひとりで飲む。こうやってリストと釣りに来るのは初めてだね」
「釣りは楽しいね!」
「そうだね。わたしは父親になったことが・・・つまり父親モデルになったことがないんだよ。父親っていうのは、もっと厳しくあるべきかな?」
「ううん、今のままでちょうどいいよ」
「そうかい?ありがとう」
 二人は浮きが波に揺れて浮き沈みする様子をながめています。ミスター・リンドベリは虫除けネットを脱ぎました。
「もうこれはいいだろう。ラウハもエルヴィもこんなところまで来ないさ」
「引いてるよ!」
「シーッ、しずかに。魚が逃げちゃうだろ?」ミスター・リンドベリはそっと言いました。
「ぼくらの話は魚に聞こえてるの?」
「聞こえてるさ」
「ぼくも魚になりたい」リストはため息まじりに言いました。
「どうしてだい?」
「だって魚は自由だし楽しそうだから」
「リストは楽しくないのかい?」
「うん。気になることが一つあって」
「なんだい?」
「ネッリがひとりぼっちなんだ。おじさんがリンドベリおじさんだったら、ネッリもいっしょに釣りができるのにな」
「そうだね」
(レンヌであるのはけっこうつらいな。つまりはラウハをだましていることだし、嘘がバレたらラウハは怒って二度とわたしに会ってくれないだろう)
 ミスター・リンドベリは釣り竿を桟橋にあげて、ミミズを釣り針に刺し直し、漁網を投げました。リストもおなじようにすると、二人はふたたび並んで座り、だまって浮きを見つめていました。

文/訳 末延弘子 シニッカ・ノポラ&ティーナ・ノポラ著『リストにお父さんがやってきた!?』(2011)より


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