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Heinähattu, Vilttitossu ja Rubensin veljekset    原書名:  Heinähattu, Vilttitossu ja Rubensin veljekset
 麦わらぼうしのヘイナとフェルト靴のトッスとルーベンス兄弟
 作者名:  Sinikka Nopola, 1953~ & Tiina Nopola, 1955~
 シニッカ・ノポラ&ティーナ・ノポラ
 出版社 / 年:  TAMMI / 1993
 ページ数:  121
 ISBN:  9513121887
 分類:  児童小説
 備考:  Risto Räppääjä saa isän
 Risto Räppääjä ja kuuluisa Kamilla
 Heinähattu ja Vilttitossu joulun jäljillä
 Heinähattu, Vilttitossu ja kielletty kampela
 麦わら帽子のヘイナとフェルト靴のトッス ―なぞのいたずら犯人―
 トルスティは名探偵 ヘイナとトッスの物語2
 へイナとトッスのクリスマス―フィンランドからのおたより―
 へイナとトッスからの手紙―講談社 青い鳥文庫

【要約】

おりこうさんの麦わらぼうしのヘイナと、おてんばなフェルト靴のトッスの姉妹は遊ぶことが大好きだ。2人の弟カシミールは、まだ4歳なのに新聞を読んで、カッティラコスキ夫妻は子供らしく自然のなかで遊んでほしいと願ってサマーコテージに出かける。

一家はサマーコテージで釣りやミミズ捕りをして夏を楽しむが、隣のコテージに滞在するルーベンス兄弟が気になってしかたがない。とくに単純でちょっぴりでしゃばりで見えっぱりな妻ハンナは、コテージに立てかけてあるイーゼルとギターと、いっぷう変わった2人の身なりを見て、ルーベンス兄弟が芸術家だと勝手に思い込んでしまう。さらには、カシミールに非凡な芸術家センスを養いたい思いから、なんとか兄弟と親しくなろうと必死だ。じゃがいもの研究者である夫のマッティは、そんなハンナのはしゃぎぶりを半ば諦めたように見つめ、麦わらぼうしのヘイナとフェルト靴のトッスはルーベンス兄弟の怪しい行動と見覚えのある癖に、町のでぶっちょ警官とひょろめがね警官の姿を重ね合わせる。カッティラコスキ一家の心温まるドタバタ夏休みの物語。

「麦わらぼうしのヘイナとフェルト靴のトッス」シリーズ(1989~)は、現在までに10巻刊行されているが、舞台化されたり映画化されたりするなどして子どもたちからの支持が厚い。ロングセラーの一因として、現代のフィンランド人家族の生活が感動的に描かれているからであろう。子どもを持つ親の悩み、子どもの成長にともなう情緒、いかにして家庭で子どもの自主性や主体性の可能性を伸ばしていくか、といったテーマが、生き生きと時代の流れに沿って朗らかに展開されている。2002年にはカイサ・ラスティモ監督による『麦わらぼうしのヘイナとフェルト靴のトッス』が上映され、総観客動員数および興行成績ともに子ども向け映画としては快挙を達成した。また、『麦わらぼうしのヘイナとフェルト靴のトッスとルーベンス兄弟』は、2003年にヘルシンキ市劇場で舞台化された。

【抜粋訳:pp.47-50】

芸術家の服

ハンナはベランダで、麦わらぼうしのヘイナとフェルト靴のトッスが持ってきてくれる粉と砂糖を待っています。ヘイナとトッスが戻ってくるやいなや、ハンナは2人の手から袋をひったくってこう言いました。

「もたもたしていられないわ、みばえのいいケーキを作らないと!」

ケーキの生地がホットパンツに飛び散るくらい、勢いよくハンナが泡だて器でかき混ぜます。その隣で、トッスは生地がボウルから型へ流し込まれるのを今か今かとまっています。トッスのねらいはボウルについた残りの生地で、ヘイナはゴムベラについたぶんで十分でした。 ヘイナとトッスがオーブンを覗きこんで、こうトッスが言いました。

「生地がポコポコいってるよ」

「いい感じに膨らんでるわ。立派なケーキができるわよ!飾りつけは何にしようかしら。芸術家さんっていうのは、世界のあちこちでおいしいものを食べてきているものね」

「その芸術家の兄弟を見たよ」と、トッス。

「ほんとに?どんな感じだった?」

「シーツに包まってた」

「アータミ・ルーベンス…」と、ハンナは言いながら、窓越しに隣のコテージをちらっと見ました。

「その人はきっと、すごく繊細な人なんだわ。真珠が貝殻のなかに包まれているように、シーツに包まっているのよ」

「わたし、その人の手をみたわ」と、ヘイナ。

「芸術家の手だった?」

「それはどういうの?」

「たいていは、折れそうな手で血管が見えるくらい白い手をしているのよ。シーツは白だった?」

「うん」

「よし、思いついたわ。まっ白なケーキを作りましょう。とってもモダンなケーキよ。泡立てたクリームを塗って、まん中に飾りを一つだけおくの…。何がいいかしら?」

「タンポポ」と、ヘイナ。

「それじゃあ、ふつうすぎるわ」

「わかった。松ぼっくりをおいて、松ぼっくりケーキにすれば」と、トッス。

「白樺の葉っぱは?」

「ミートボールがいいよ」

「白樺の葉っぱなんていいんじゃないかしら。ヘイナ、ちょっと白樺の葉っぱをちぎってきてくれない?虫がついていないか、ちゃんと見てね」

「ヘイナの飾りになっちゃったよ」と、トッスはぶつぶつ言いましたが、ハンナは聞いているふうもなく、オーブンを開けてケーキの焼け具合を串で試しています。

ハンナは、テラスにテーブルの準備をすませていました。そして、家族みんなに、よそいきの服に着替えるように言いつけていたのです。トッスには花柄のワンピースを用意していたのですが、サイズが小さくなってしまって、しかも、昔からトッスはワンピースを着るのを嫌がっていました。そこで、芸術家の兄弟が来ているときだけワンピースを着てくれるなら、残ったケーキをひとりじめしていいから、とハンナはついつい約束してしまったのです。

トッスにワンピースを着させるために、どうしていつもご褒美を約束するのか、へイナは納得がいきません。

「ヘイナには必要ないよ。だって、ワンピースが好きでしょ」 息子のカシミールには蝶ネクタイを押しつけましたが、カシミールはぐいっと取りさるとすみっこへ放り投げました。

「ネクタイはやだよ」

「お客さんがもうすぐここに来るのよ!マッティ、あなたもまだ水着姿なの。シャツに着替えて、ネクタイを締めて。でも、わたしは何を着たらいいのかしら。センスのいい服なんてあったかしら?」と、忙しそうに立ち回りながら、数十着の服を試しています。棚からオレンジ色のベッドカバーを見つけると、ワンピース風に結びました。そして、頭には緑色のテーブルクロスをターバンのように巻きつけたのです。

「どうして、君は頭にテーブルクロスを巻いてるんだ?」と、マッティが聞きました。 「じきにわかるわ」と、言いながら、白樺の葉っぱを飾ったケーキの隣に立ちました。 「失礼のないように、招待するほうの色の世界と周りの色の世界を調和させているの」 カッティラコスキ一家はガーデンチェアに座って、隣のコテージを眺めています。ハンナは、準備されたテーブルに最後の視線を送ると、満足そうに微笑みました。すると突然、椅子から立ち上がってこう言いました。

「あの新聞記事はどこ?テーブルのすみっこにそっとおいておかなくちゃ!」

「何の記事だい?」と、マッティが驚いたように尋ねます。

「あれよ、桟橋で釣った魚を包んだ新聞!中国での神童の話が載ってたやつよ!」 「冷蔵庫のなかにあるわ」と、ヘイナ。

ハンナはキッチンへ駆け出すと、魚臭い新聞を庭へ持ってきて、神童の記事の部分が見えるように折りたたみました。

「なんでそれを見せなくちゃいけないんだ?」

「あなた、わからないの?」と、ハンナはびっくりした様子で、新聞記事とカシミールと隣のコテージを見て頷いたのです。

「つまり、ぼくたちのカシミールが神童に?」

マッティの質問にハンナは答える余裕もなく、隣のコテージのドアが開いて、ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる2人の姿を見ていました。

「ひげ男がやってくるぞ」と、マッティがふうっと溜息をつきました。

「それから、シーツ男!」と、トッスが声を上げました。

文/訳 末延弘子 シニッカ・ノポラ&ティーナ・ノポラ著 『麦わらぼうしのヘイナとフェルト靴のトッスとルーベンス兄弟』(2001)より


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