【要約】
時は1955年。動物好きの小さいパウリ、科学者を夢みる大きいパウリ、車いすに乗ったライヤ、大人になりたくないルス。村の子どもたちの特別な場所は、毎週土曜日に集まる小さなランプ屋でした。そこは、子どもたちのとっておきの遊び場でした。
ランプ屋は、村外れの墓地と教会の近くにありました。
「人間には知の光も必要だ。教養は人類のもう一つの太陽だよ」というランプ屋の主人の店の客足は多くなく、月に一度、客の出入りがあるかないかでした。珍しくて高級なランプばかり置いてあるけれど、それを買いにくる客もいました。会計士、詩人、若い女性、伯爵夫人、漁師、警察官、読書好きの少女、そして、クリスマスを前に光を買いにやって来た黒マント姿の見知らぬ男性客。
だれとでも友だちになれる小さいパウリには、ほかの子には見えない動物が見えたり、妖精の靴を見つけたりしました。科学がすべてだと言う大きいパウリは、幽霊も妖精も信じていません。ルスは、自分だけの特別な動物が見えた小さいパウリをうらやましく思っていました。ルスにとって、世界は謎に包まれていて、大切なものをしまっている緑色の小箱のようだったからです。開けても開けても小箱のなかには小箱があって、謎は永遠に解けません。なぜなら、どんなに箱が小さくなっても、一つの世界を抱いているからです。
「神さまは、砂や雪や外壁に文字を書きました。人の手や顔やかろやかにきらめきながら湿った大地に舞いおちる木々の葉にも跡を残しました。かつて起こったこと、これから起こること、すべてがそこに書かれてあります。けれど、神さまの文字はとても小さくて、ルーペで見ても読みとれません。もしかしたら、神さまは見えないインクで書いたのかもしれません」
人間の時間は過去から未来へ吹いてゆきます。しかし、自然の風は全方向から吹いてきます。もっとも根源的な自然の法則に、時間と空間の区別はないのです。それは、目に見えないけれど、太陽のように輝きを忘れません。自分を充たしつづけるものは何なのか。もっとも大切なものは何なのか。失われない子どもの心は、永遠のなかにあることを知る一冊。
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