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Sfinksi vai robotti?    原書名:  Sfinksi vai robotti
 (スフィンクスか、ロボットか)
 作者名:  Leena Krohn, 1947~
 レーナ・クルーン
 出版社 / 年:  WSOY / 1999
 ページ数:  101
 ISBN:  9510238724
 分類:  YA
 備考:  Hotel Sapiens
 Auringon lapsia
 Valeikkuna
 Kotini on Riioraa
 Mehiläispaviljonki. Kertomus parvista
 Unelmakuolema
 Pereat mundus
 蜜蜂の館
 ペレート・ムンドゥス ― ある物語
 ウンブラ-パラドックス資料への一瞥
 タイナロン-もう一つの町からの便り

【要約】

世界の誕生とは?世界の終焉とは?重力とは?死や未来とはなんだろう?哲学的な偉大な疑問を、作品の主人公である子どもたちが大人と一緒に考えるサイエンスファンタジー。

【抜粋訳: pp.59-63 】

ありふれた石

店の窓にはり紙が貼られていて、そこにはこう書いてある。

「売り物なら何でも買います」

リディアとスレヴィ、それに、ほかの子どもたちが海岸から集めてきたものがある。水際から拾ってきた色とりどりの小石だ。小石を袋に入れると、店に持って行き、店主に見せた。

「すいません、この石、どれくらいで買ってくれますか?」と、子どもたちが聞く。

「困っちゃったなあ、これは買い取れないよ」と、店主。

「どうして?お店の窓には"売り物なら何でも買います"って書いてあるのに」と、子どもたちの声は沈んでいる。

「だろ?いいかい、看板には、何でも買います、とは書いていない。売り物なら何でも買います、と書いてあるんだ。そういう違いだよ。この小石は、そりゃ"何でも"になるけど、売りもんにはならないだろ。売れないような物は買わないほうがいいんだ」

「だれにとって?」

「もちろん、この私だよ。もし、商人でいたいっていう気持ちがあれば」

「どうして、買わないほうがいいの?」

「よおく聞くんだよ、どうして商人さんが売れない物を買うのかな?」

「でも、この石をあなたに売るとすると、それだってそのときは売り物ですよ」

「あぁもう、わかってないなあ。それから先に進めないってことなんだよ。それは確かだね。だから、私はね、君たちから買わないほうがいいっていうことなんだ。もし、買っても、売らないよ。商人でいられなくなっちまう。何にも売りつけなくても、クロイソスなら買うだろうな」

「クロイソスってだれですか?」

「ものすごい大金持ちさ」

「あなたは、ものすごい大金持ちになりたくはないんですか?」

子どもたちのその質問に、店主は笑った。

「もちろんさ。でも、クロイソスには買うことではなれないよ、売らないと」

子どもたちにしてみれば、店主の話はまとまりがなく奇妙だった。石の袋を指でいじりながら、こう言った。

「でも、とてもきれいな石です」

「そうだろうね。世界は美しい物で溢れている。そのうちの多くがありふれたもので、お金がかからない。人は、美しい物があるからといって、そのためだけにお金を払わない。珍しい物にお金を出すんだ」

「この石は全部、珍しいです」

「宝石は珍しい物だけど、海岸の石は違うなあ。ほんとにただの石ころだよ。ありふれた石さ。私のお客さんには、持ってきた石も海岸のほかの石も見分けがつかないだろう。海岸全体が何十億もの同じ石で溢れかえっているんだ」

「そんなことないです。僕らは自分たちの手で海岸の石を選り分けたんです。そこには、ひとつとして同じような石はありませんでした。それぞれが別物で、ここにある石はみんな、そのなかでも群を抜いてキレイなんです」

「そうだねえ。でも、そんなこと、私のお客さんは知らないんだよ」

「じゃあ、あなたが言ってくれれば、そうすれば、お客さんもわかります」

店主はふぅと溜息を吐いた。もう、我慢の限界だ。子どもたちから解放されたくて、こう言った。

「あぁもう、わかった。1キロあたり2マルッカで買うよ」

店主はそう言うと、石を秤にかけてその分を支払った。全部で5キロ半あった。以前よりもお金持ちになった様子で満足げにその場を後にした子どもたちは、自分たちがクロイソスにでもなったかように感じていた。

店主は店員に石を洗って、水が入ったガラスの花瓶に入れるように言いつけた。水とショーウィンドーの光が、石を宝石のように煌かせた。しばらく考え込んだあと、店主は貼り紙にこう書いた。

「手で選りすぐった海岸の石。1MK/100g。」

根っからの商売人だ、彼は。

翌週、リディアとスレヴィとほかの子どもたちが店に舞い戻ってきた。薄暮の光が、町の窓辺、大洋、海岸の濡れた石に煌きを放っている。

子どもたちはねこ車や乳母車を押したり、車輪のついたスーツケースを引っ張ったりしている。キャリーも車輪もバッグも、海岸の石でいっぱいだ。美しくてありふれた、ただの石で。

 「すいません、店主に」

 彼らはまるで、贈り物を持ってきたかのように言った。

文/訳 末延弘子 レーナ・クルーン著『スフィンクスか、ロボットか』(1999)より


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