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Kotini on Riioraa    原書名:  Kotini on Riioraa
 (わたしの家はリーオラー)
 作者名:  Leena Krohn, 1947~
 レーナ・クルーン
 出版社 / 年:  TEOS / 2008
 ページ数:  108
 ISBN:  9789518511352
 分類:  児童書
 備考:  Hotel Sapiens
 Auringon lapsia
 Valeikkuna
 Mehiläispaviljonki. Kertomus parvista
 Unelmakuolema
 Sfinksi vai robotti
 Pereat mundus
 蜜蜂の館
 ペレート・ムンドゥス ― ある物語
 ウンブラ-パラドックス資料への一瞥
 タイナロン-もう一つの町からの便り

【要約】

時は1955年。動物好きの小さいパウリ、科学者を夢みる大きいパウリ、車いすに乗ったライヤ、大人になりたくないルス。村の子どもたちの特別な場所は、毎週土曜日に集まる小さなランプ屋でした。そこは、子どもたちのとっておきの遊び場でした。

ランプ屋は、村外れの墓地と教会の近くにありました。 「人間には知の光も必要だ。教養は人類のもう一つの太陽だよ」というランプ屋の主人の店の客足は多くなく、月に一度、客の出入りがあるかないかでした。珍しくて高級なランプばかり置いてあるけれど、それを買いにくる客もいました。会計士、詩人、若い女性、伯爵夫人、漁師、警察官、読書好きの少女、そして、クリスマスを前に光を買いにやって来た黒マント姿の見知らぬ男性客。

だれとでも友だちになれる小さいパウリには、ほかの子には見えない動物が見えたり、妖精の靴を見つけたりしました。科学がすべてだと言う大きいパウリは、幽霊も妖精も信じていません。ルスは、自分だけの特別な動物が見えた小さいパウリをうらやましく思っていました。ルスにとって、世界は謎に包まれていて、大切なものをしまっている緑色の小箱のようだったからです。開けても開けても小箱のなかには小箱があって、謎は永遠に解けません。なぜなら、どんなに箱が小さくなっても、一つの世界を抱いているからです。

「神さまは、砂や雪や外壁に文字を書きました。人の手や顔やかろやかにきらめきながら湿った大地に舞いおちる木々の葉にも跡を残しました。かつて起こったこと、これから起こること、すべてがそこに書かれてあります。けれど、神さまの文字はとても小さくて、ルーペで見ても読みとれません。もしかしたら、神さまは見えないインクで書いたのかもしれません」

人間の時間は過去から未来へ吹いてゆきます。しかし、自然の風は全方向から吹いてきます。もっとも根源的な自然の法則に、時間と空間の区別はないのです。それは、目に見えないけれど、太陽のように輝きを忘れません。自分を充たしつづけるものは何なのか。もっとも大切なものは何なのか。失われない子どもの心は、永遠のなかにあることを知る一冊。

【抜粋訳: pp.83-85】

「なにかお探しですか?」
「あなたが光を売ってらっしゃるご主人ですか?」紳士はにこりともせず聞きました。顔色は悪く、やせ細っていました。
「光というより、ランプや照明器具ですが。灯油ランプにガスランプ、それから電気ランプ。あつかっているのは、だいたい電気ランプばかりです。白熱電球ですよ。明るくて一〇〇ワットですが、うちのはもっと暗めの二五ワットのものがほとんどです。でも、蝋燭もご用意してあります」
「光ではないんですね?」
「ランプに使う灯油やガスや電気を売ってる人はいますが、光だけ売ってる人なんて知りません」ランプ屋の主人が言いました。
「もっとも大切なのは光です」
「もちろんです。ランプは光あってこそですから。どのランプにも光はあります。そうでなければ、ランプでもなんでもないでしょう?うちでは、大小取りそろえてあります。天井照明、フロアライト、テーブルランプ。広間や寝室、それに台所やガーデンパーティ用。それから、クローゼット用、鏡の上に取りつける玄関照明、工事用のスポットライト、二人の夜のためのムードランプもご用意してあります」
「しかし、わたしがほしいのはランプではなく、光なんです。できれば、太陽の光が」紳士は顔色を変えずに言いました。
「お客さん、それは売っていません。だって、それは買わずとも手に入るでしょう。太陽はだれにでも照っているんですから」ランプ屋の主人はあきれたように言いました。
「そんなことありません」
「日が照れば、そうですよ。もちろん、夜や、曇りや、今の時分のように秋ですと、そうそう日は射しませんが」
「わたしの国にも射しません」
「お国はどちらです?」
「闇に包まれた国です」
 なんとも奇妙な返事だったので、主人は恐くなってきました。
「いったいそんな国はどこにあるんです?」
「ご存じのはずです。ご主人だけでなくみんな知っています。ただ、忘れたいんですよ」
 ランプ屋の主人は言葉がでませんでした。ランプの明かりはいまにも消えいりそうで、紳士の姿がよく見えません。見知らぬ紳士のまわりにどんどん影が集まって、固まっていくようでした。
「つまり、光は売ってくれないんですね?光だけでいいんです」
「売れません。いったいどうやって売るんです?どうやってお包みして、それをどうやってお客さまは持ち運ぶんですか?明日までお待ちください。天気予報によると、明日は晴れになるそうです。明日は太陽がでますよ。買う必要はありません。ただ、日照時間はそんなにないですが。十一月ですからね」
「わたしに明日はありません。わたしにあるのは夜だけです。これがずっと続くんです。いつも十一月なんですよ。わたしはこれで、さようなら」

文/訳 末延弘子 レーナ・クルーン著『わたしの家はリーオラー』(2008)より


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