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Maukka ja Väykkä    原書名:  Maukka ja Väykkä
 (マウとバウ)
 作者名:  Timo Parvela, 1964~
 ティモ・パルヴェラ
 出版社 / 年:  Tammi / 2009
 ページ数:  126
 ISBN:  9789513147884
 分類:  児童書
 備考:  Maukka ja Väykkä rakentavat talon
 Maukka, Väykkä ja mieleton lumipallo
 Onnenpyörä
 Hilma ja täydellinen lemmikki / Hilma ja hyvä harrastus
 Karuselli
 Ella ja kaverit 1-3
 Keinulauta
 Ella aalloilla
 Sanoo isä

【要約】

空と森をわかつ丘の上に立つ空色の家に、猫のマウと犬のバウは同居しています。夢見る気まぐれロマンチストで理論家のマウと、毎日の畑仕事に精をだす忠実なリアリストのバウは、起きる時間も、好きなものも、考え方も違います。

トマト品評会に出品するためにバウが丹精こめて育てたトマトを、マウが自分の一万ピースパズル完成祝いにトマトソースにしてしまったり、バウの釣りの仕方に横から口だしするマウにバウはうんざりしたり、ゲーム好きのマウが蹴ったサッカーボールにバウの自慢の野菜が台無しになったりと、心配に事欠きません。

思いのすれ違いはありますが、おたがいのことを大切に思う気持ちは同じです。丘のふもとの池に映る月の橋をわたって、月までサイクリングしたいというマウのために、バウは畑の収穫物を市場で売って自転車を買ってあげます。一方、マウはクリスマスに自分の宝物の双眼鏡をバウにプレゼントします。いつもきまったことをきちんとこなすことにがんばりすぎて、バウが疲れていると、「だれもなにも期待してないよ」とマウは励まし、完璧であろうとするばかりにマウが臆病になっていると、「完璧っていうのは自分らしくあることだよ」とバウが優しく寄り添います。

あるとき、冬が苦手なマウは渡り鳥といっしょに南に行くと言って出て行きました。丘の上の空色の家に一人残されたバウは、言葉にできない寂しさをおぼえます。数日後にはマウは戻ってきましたが、バウはかけがえのないものの喪失感を忘れることができませんでした。そして、マウも、移ろいゆく時間のなかで、すべてはいつか終わってしまう不安を抱き、大切な友だちの存在を思います。

「月までサイクリング」から「終わりと始まり」まで20篇を収蔵した短編連作集「マウとバウ」シリーズ第1弾。

【抜粋訳: pp. 126-128】

「あっというまだ。宝さがしもしたし、魚釣りもしたよね?バウ、おぼえてる?牛のムーッコネンとサッカーもしたでしょ?」マウは切ない気持ちになりました。
 バウはりんごの木の下で気持ちよさそうに寝息を立てています。
(バウは眠っちゃったんだ)
 マウは友だちの顔をそっとなでました。
「あっというまに時間が経って、このまま終わっちゃったらどうしよう」マウはひとりつぶやきました。その声は消え入りそうで、とても大切な友だちにしか聞きとれないくらいの小さな声でした。バウは顔にかぶせていた帽子をずらして、力強い茶色い瞳でマウを見ました。
「どういうこと?」
「ぼくらがいなくなったらどうなるの?」
「そうなっても、このりんごの木がおぼえているよ」
「りんごの木もなくなったらどうなるの?」
「そうなっても、あの家がぼくらをおぼえているさ」
「家もぼろぼろになってなくなったらどうなるの?」
「そうなっても、この丘がある」
「丘になにも生えなくなったらどうなるの?」
「それでも、いまとおなじ太陽が照らしてくれるさ」
「太陽もなくなったらどうなるの?太陽が消えて、すべてが終わったら?」マウはいまにも泣きそうです。バウは体を起こして、マウを抱きしめました。ツグミがしっぽをちょこちょこ動かし、ふもとの池でかげろうがゆらゆら揺れました。
「そうなったら、すべてが始まると思う」
「どういうこと?」
「太陽は闇を照らすから」
「それでどうなるの?」
「地球が生まれて、そこに生命が宿る。鳥は飛ぶことをおぼえ、川は流れ、森が成長するんだ」
「ほんと?この丘はどうなるの?」
「丘は、池と森の間に生まれる」
「家は?」
「家は空色で、庭にはりんごの木が生える」
 バウがそこまで言うと、マウがその後に続いてこう言いました。
「そのりんごの木の下には猫と犬がいて、いっしょにジュースを飲んで、世界でいちばん大切な友だちになるんだ」
「そうだよ。終わりじゃなくて始まりなんだ」
「ほんとだね。そこからすべて始まるんだね」
 二人はりんごの木にもたれて、にっこりほほ笑みあいました。マウはバウにジュースを差しだし、バウの鼻先についたジュースのしずくをぬぐいました。
「今日は満月だよ。今夜は月まで行けるかな?」マウが言いました。
「かもしれない」バウはマウにほほ笑むと、二台の自転車を取りに納屋に行きました。
 今日はマウの誕生日です。

文/訳 末延弘子 ティモ・パルヴェラ著『マウとバウ』(2009)より


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