【抜粋訳:pp.124-135】
月に一度、葬式ごっこをしようということになった。こういうのは、そんなにしょっちゅうやるもんじゃない。じぶんの葬式を手早く片づけてほしいなんて、だれも望んでいない。どの葬儀も、献身的で唯一無二でないといけない。
(・・・)
「楽しくない」と、エリナがぐちる。
「だいたい、葬式っていうのは楽しくないもんさ」と、発起人のアーダが言った。
「それはそうかもね」
エリナは弔問客にちらりと目をやる。マルコは通夜ぶるまいのサンドイッチにスライスしたリンゴを挟んでいる。エンマは手をぽりぽり掻いて、アーダはエリナの様子をじっと見つめ、ペーテルは絵を描いていた。すると、アーダが切り出して、こう説明した。
「あたしはね、葬式ごっこで、あたしらがいちばん辛いことを葬りたかったわけ。棺んなかに置いてきたかったんだ」
すると、ペーテルがふと手を止めて顔を上げると、こう言った。
「そんなの墓んなかでじっとしてるわけないじゃん。ゾンビみたいにぴょーんって飛びだしてくるぜ」
「この葬式ごっこは、そういうことはどーでもいいことなんだよ。なんだったら、もう止めてもいいんだから」と、アーダは声を荒げた。
(・・・)
エンマは、葬式ごっこに誘われた当初、参加するかどうか考えていた。
死の遊びなんて危険じゃないの?ほんとうに死んじゃうんじゃないの?たとえ危険がないにしても、なんの役に立つのよ?ベッドのなかに入っていても、エンマの頭のなかでは、どうして?という疑問がぐるぐるめぐっていた。
(・・・)
これはたんなる遊びにすぎないし、すぐに終わるものだとエンマは知っていた。知ってはいたけれど、遊びのなかにも、なにかしらの種があった。その種からなにが芽生えてくるのか、そのときは知らなかったけれど、今は知っている。物事は変わっていくということを。人生は砕け散ったわけじゃないということを。
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