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Ainakin tuhat laivaa    原書名:  Ainakin tuhat laivaa
 (せめて千隻の船を)
 作者名:  Sari Peltoniemi, 1964~
 サリ・ペルトニエミ
 出版社 / 年:  TAMMI / 2005
 ページ数:  171
 ISBN:  9513132889
 分類:  YA
 備考:  Kerppu ja tyttö
 Hirvi
 Löytöretkeilijä Kukka Kaalinen

【要約】

わたしたちの世界は、ほかの世界があるからこそ存在しています。境界線の向こう側とこちら側の世界を、ペルトニエミは巧みに共存させながら、8つの物語を編み上げました。

貧困や疫病に喘ぐ難民と富と金を手にする独裁者の対立、大飢饉をもたらす冬を前に生きてゆく道を探る少女マンユの姿、カラス一族の自然との対話、菜食や癲癇を患うミモザ・シンドロームを生む現代、広島の原爆で病に伏した定子に千羽鶴を送ったように、不治の病に倒れたレアおばさんに折る千隻の船の意味とは?また、葬式ごっこをする若者たちの孤独とは?彼らのなにが死に、なにが生まれたのでしょうか?

日常と非日常が融合したペルトニエミのファンタジーは想像力を掻きたてます。その想像力は、読者の感覚を研ぎ澄まし、見慣れたものを新奇なものに変え、いくつもの選択肢を投げかけてくれることでしょう。

【抜粋訳:pp.124-135】

月に一度、葬式ごっこをしようということになった。こういうのは、そんなにしょっちゅうやるもんじゃない。じぶんの葬式を手早く片づけてほしいなんて、だれも望んでいない。どの葬儀も、献身的で唯一無二でないといけない。

(・・・)

「楽しくない」と、エリナがぐちる。
「だいたい、葬式っていうのは楽しくないもんさ」と、発起人のアーダが言った。
「それはそうかもね」
エリナは弔問客にちらりと目をやる。マルコは通夜ぶるまいのサンドイッチにスライスしたリンゴを挟んでいる。エンマは手をぽりぽり掻いて、アーダはエリナの様子をじっと見つめ、ペーテルは絵を描いていた。すると、アーダが切り出して、こう説明した。
「あたしはね、葬式ごっこで、あたしらがいちばん辛いことを葬りたかったわけ。棺んなかに置いてきたかったんだ」
すると、ペーテルがふと手を止めて顔を上げると、こう言った。
「そんなの墓んなかでじっとしてるわけないじゃん。ゾンビみたいにぴょーんって飛びだしてくるぜ」
「この葬式ごっこは、そういうことはどーでもいいことなんだよ。なんだったら、もう止めてもいいんだから」と、アーダは声を荒げた。

(・・・)

エンマは、葬式ごっこに誘われた当初、参加するかどうか考えていた。
死の遊びなんて危険じゃないの?ほんとうに死んじゃうんじゃないの?たとえ危険がないにしても、なんの役に立つのよ?ベッドのなかに入っていても、エンマの頭のなかでは、どうして?という疑問がぐるぐるめぐっていた。

(・・・)

これはたんなる遊びにすぎないし、すぐに終わるものだとエンマは知っていた。知ってはいたけれど、遊びのなかにも、なにかしらの種があった。その種からなにが芽生えてくるのか、そのときは知らなかったけれど、今は知っている。物事は変わっていくということを。人生は砕け散ったわけじゃないということを。

文/訳 末延弘子 サリ・ペルトニエミ著『せめて千隻の船を』(2005)より


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