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Kerppu ja tyttö    原書名:  Kerppu ja tyttö
 (ケルップと少女)
 作者名:  Sari Peltoniemi, 1964~
 サリ・ペルトニエミ
 出版社 / 年:  TAMMI / 2007
 ページ数:  72
 ISBN:  9789513137946
 分類:  絵本
 備考:  Annikin tuhat laivaa
 Hirvi
 Löytöretkeilijä Kukka Kaalinen

【要約】

自分だけの友だちがほしいと思う小さな黒い犬のケルップ。ケルップの誕生日に送られてきた大きな箱の中に入っていたのは、黒髪のかわいらしい人間の女の子でした。ケルップは、とても嬉しくなって、女の子をヘリナと名づけます。ところが、ヘリナはケルップの思いどおりになりません。骨のガムは食べてくれないし、飲み物はマグカップでしか飲まないし、夜になるとホームシックになって泣きだすヘリナに、ケルップはてんてこまい。一緒に散歩していても、ヘリナは自分のところから離れて、車や自転車のところに駆けよったり、ほかの子どもと遊んだりして、言うことを聞いてくれません。ついにケルップはヘリナを頭ごなしに叱ります。すると、友だちのダックスフントのアッフェに「ヘリナは人形じゃないよ」と言われて、様子を見ることにしました。

ヘリナには手を焼きますが、ケルップはヘリナに飽きることはありませんでした。一緒にジュースを飲んだり、木陰でお昼ねしたり、外に散歩に連れていったり、ヘリナがしたいことをケルップは考えるようになりました。友だちは自分といつもおなじ考えでおなじ行動をするわけではないのです。ある日、外でかけっこをしていたら、ヘリナがそのままどこかに行ってしまいました。ケルップは、『いぬ新聞』の掲示板に迷子の知らせを懸賞つきで載せて、森まで探しに行きました。

キツネの手を借りてケルップはヘリナを探し当てました。ヘリナは洞窟で疲れて眠っていました。ヘリナを発見したあと、ケルップは『犬のための人間の育て方』というガイドブックに目を通しました。人間は犬とおなじようなものだと思っていたケルップは、あらためて違いに気づきました。話す言葉も歩き方も違います。犬にくらべて嗅覚も劣ります。違いはたくさんあるけれど、違いを超えてふたりを繋ぐ強いなにかがあるとケルップは思いました。それは、おたがいに好きだという気持ちだとケルップは思いました。ヘリナはお父さんとお母さんのいる家に帰り、今度はケルップがヘリナのところに行くことになりました。

作者のサリ・ペルトニエミは、ファンタジーを得意としている児童作家で、人間と森の住人の心の通いを描いたウルスラ姫と息子ヘラジカのファンタジー物語『Hirvi(ヘラジカ)』(2001)は、2004年度IBBYオナーリストを受賞しました。『ケルップと少女』は、フィンランド児童作家団体が主催するアルヴィッド・リュデッケン賞の候補作に選ばれました。

【抜粋訳:pp.18-20】

「ヘリナ、おいで」ケルップはヘリナを呼びました。
 ヘリナにはどうやら聞こえていないようです。ケルップはもっと大きな声をだしました。
「ヘリナ、おいで!」
それでも、ヘリナはまだ来ません。ケルップはどなりました。
「ヘリナ!待て!おすわり!来い!伏せ!ヘリナはわたしのものよ!」
その場がしんと静まりました。仲間の犬たちはおどろいてケルップを見ています。友だちのダックスフントのアッフェがこう言いました。
「一度にたくさん命令しすぎ。これじゃ、なにをすればいいのか、子どもはわからないよ」 「ヘリナはわたしのだもん」
ケルップはくやしそうに言いました。
「ほかの子と遊ばせたら」
「わたしと遊ぶんだもん」
「ケルップ、ヘリナは人形じゃないよ。ちゃんと自分の意志があるんだ」
なにもかもがうまくいかない、ケルップはそう思いました。ヘリナはずっと自分のそばにいて、ボール投げをいっしょにやってくれると思っていたのに、ヘリナはほかの子となわとびをして遊んでいます。ヘリナは、ケルップのことをすっかり忘れてしまっているようでした。
「ヘリナ、おいで!」
ヘリナはなわとびをやめて、ケルップのところに走ってきました。
「なに?」
「家に帰るのよ。わたし以外の子と遊んでほしくないの」
「ケルップだって、ほかの子と遊ぶじゃない」ヘリナはむすっとして言いました。
「それとこれとは別よ。ヘリナはわたしのものなんだから」
「もし、わたしがケルップのものだったら、ケルップはわたしの犬ってことだわ。ルールはおんなじよ」
ケルップはちがうといったふうに首を横にふりました。
「ヘリナはわたしのだけど、わたしはわたしのもの」
ヘリナもぶんぶんと首をふりながら言いました。
「ずるい」
ヘリナはわんわん泣いて、地面をグーでどんどん叩いて、草をむしりとって、あばれだしました。木の根っこも引きぬいてしまいかねないほどのあばれようでした。
「子どもはああいうものだから」みんなが集まってきて言いました。
「育て方がわるかったみたい」ケルップがそう言うと、みんながくすくす笑いました。
「教育は役に立たないよ。じっと様子を見ること。そうすれば落ち着いてくるよ」アッフェが言いました。
「自転車に乗っている人にも吠えるし、夜泣きもするの。それって、どこか悪いのかしら」
「そんなことないよ。ただ、自分の意志があるだけ。さっきもそう言っただろ」
「どうやったら、それを取り上げられるの?」
「むりだね」
「そんな、じゃあどうすれば・・・」ケルップはなやみました。
「じっと待って、様子を見ること。いいね」アッフェが言いました。

文/訳 末延弘子 サリ・ペルトニエミ著『ケルップと少女』より


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