【抜粋訳: pp.34-37】
だれが去って、だれが残ったのでしょう?落し物事務所のスタッフが帰宅したあと、全員の出欠をとることになっています。名前を呼び始めると、倉庫はわーわーぎゃーぎゃーとすさまじい叫び声でいっぱいになります。
「シャンデリア?」
「はい」
「イヤリング?」
「ここよ」
「片方の手袋?」
返事がありません。つまり、片方の手袋は引き取られたのです。
「あいつは、じぶんのモカ色の革の自慢ばかりしていたっけ」と、仕事用の手袋が怒ったように言いました。すさまじい出欠とりは、夜遅くまで続きました。
(・・・)
落し物が引き取られるということはめったにありません。ときどきオークションにかけられるときもありますが、全員が売られるわけではありません。ほとんどが、穏やかな老後を落し物事務所の気楽な棚の上で過ごすのです。カクレンボ所長は、決してモノを見捨てません。ですから、落し物たちはみんな、彼に感謝しています。
(・・・)
落し物に対してあーだこーだ言わない人もいます。ポッラリ警官はその一人です。彼は分けへだてなく、すべてのモノを尊敬しながら優しく接します。警官の古いミニバイクが盗まれたときなどは、袖に黒いリボンをつけて一ヶ月間喪に服しました。ミニバイクを盗んだ泥棒は捕まることはなく、バイク自体もとうとう見つかりませんでした。喪が明けたあとも、イルマと読んでいたバイクのことを熱く語るほどです。
「イルマの乗りごごつは、すんばらしかったー。ガソリンも、食わねかったしなー」
人間や動物とはまた違うけれど、モノだって生きているということが、ハナにはわかっていました。わたしたちより禁欲的に。そういったモノについて、どんなふうに考えるべきなのでしょう?ハナは、「モノ保護」についてノートにこう書きました。
モノというのは、ポイ捨てされたり、とくにゴミの山に捨てられたりするのを恐れています。
モノをポイ捨てしたり、ゴミの山に捨てたりしてはいけません。
壊れたモノは、高温多湿を避けて、棚のなかなどに保管しましょう。
ときには、今でも現役であるかのように接してあげましょう。
|