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Voi vallatonta    原書名:  Voi vallatonta
 (王冠をぬいだクマ)
 作者名:  Esko-Pekka Tiitinen, 1956~
 エスコ=ペッカ・ティーティネン
 出版社 / 年:  Tammi / 1987
 ページ数:  31
 ISBN:  951-657-205-7
 分類:  絵本
 備考:  Hippiäinen ja hyvän päivän sadut
 Lintu ja poro
 Villapäät

【要約】

ある森に、王冠をいただくクマがいました。森の小さな住人たちから、温かくて厚い信頼をうけている森の王さまです。冬をまえに、あたふたし始めたリスやウサギやイノシシに、今のうちからしっかり食糧を貯えて、冬の色に衣替えするように、クマは助言しました。

王冠をかぶって以来、クマは助言することに追われておちおち冬ごもりもできないでいました。そこで、しばらく休みをとることにしました。森でばったり会ったキツネには、「みんながひとりで考えられるようになったらもどってくる」と告げ、立ち去ります。キツネはクマの王冠がほしくて、クマに気づかれないように尻尾でじょうずに振り落とし、自分のものにしました。

キツネは、リスやウサギやイノシシにクマの居場所を尋ねられても、妹のいる町へ出かけてしまったとか、王冠をかぶっている自分こそが王さまだと言って、王さまであるキツネに仕えるよう命令します。

リスはキツネの口車に乗せられて召使いのように働き、ウサギやイノシシはクマの帰りを望みました。クマの助言で貯えておいたせっかくの食糧はキツネに奪われ、あげくの果てにはキツネのために城を建てるように命令されます。口応えしようものなら、キツネは王冠をちらつかせて力を誇示し、逆らえなかったリスが一人で城を建てることになりました。

厳しい寒さのなか、リスは懸命に城を建てました。ところが、キツネは手のひらを返したように、リスにはもう用はないと言って、城から閉め出し、リスは寒さに凍えます。ウサギやイノシシも雪に埋もれて凍死寸前でした。リスは最後の力をふり絞ってクマを探しに出かけます。

リスから事の顛末を聞き知ったクマは、瀕死のウサギとイノシシを助け、みんなでキツネの城に向かいます。リスが命がけでつくったキツネの城は、とても頑丈でびくともしません。キツネはクマの姿を見て動揺しはじめ、城を閉ざしてしまいました。しかし、ウサギの子どもたちの「おなかすいたよう」という泣き声に、キツネの良心が痛みます。とうとう耐えきれなくなったキツネは、奪った食糧をすべて返し、王冠も手放します。キツネは反省してすごすご森に姿をかくし、クマは王冠を天に放りなげました。王冠は太陽にぶつかり、すーっと溶け、そうして春がやって来ました。

 王冠は一つじゃない。王冠はみんなの頭上にある。そんなことを教えてくれるお話です。

【抜粋訳: p.46】

「わたしにクランベリーをもってこい!大きなかごいっぱいにだぞ!」
 キツネはこれみよがしに王冠を指さしました。まだ春になってまもないのに、クランベリーどころかベリーは生えていません。けれども、リスやウサギやイノシシはキツネの命令にしたがうほかありませんでした。丘のうえに一粒。木の根もとに一粒。三つ目は岩肌に、四つ目は野原のはしっこにありました。残りは雪えくぼにちらほら見つかりました。かごいっぱいになるまで、三日と三晩、朝から晩までがんばりました。
 キツネはクランベリーがわんさと入ったかごをかかえて、かきこみながらあっという間にたいらげました。そして大きなげっぷを一つしました。
「さあ、つぎは姿見だ!」

文/訳 末延弘子 エスコ=ペッカ・ティーティネン著『王冠をぬいだクマ』(1987)より


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