【要約】
ティンッパは都会に越してきた15歳の少年です。これといって打ちこむことも見つからない平凡な学校生活が、ある日の授業で一転することに。音楽の先生が若い頃を思い出しながら弾いたナンバーに感化され、ミュージシャンという夢を抱くようになります。バスの運転手の父と掃除パートの母の家庭にはギターを買う余裕はないけれど、息子の何かをしたいというたっての願いに、祖母の手伝いで稼いだバイト代の不足分を出してくれました。
ティンッパは手に入れた中古のギブソンをつま弾きながら、バンドへの期待を膨らませます。誘いに乗ったのは、クラスメートの女子テイヤ、そして男子のトムとピケでした。バンド名はデビュー曲の制作中に二転三転しますが、いっぷう変わった「ニットソックス」に落ち着きます。バンド名の由来は、ティンッパのバンド結成を聞きつけた母の幼なじみで赤十字団体の手芸クラブのリーッタから、ボランティアでミュージカルを上演してほしいと頼まれ、そのお礼も込めて毛糸の靴下を贈られたことがきっかけでした。
人道や博愛という赤十字の理念や、バンド結成や曲ができ上がるまでの思いを、ティンッパは曲に託します。四人の孤児が音楽という生きる希望を見つけて成長してゆくミュージカルを成功させるために、ティンッパたちはリハーサルを重ねます。ヘビメタでも、パンクでも、ヒップホップでもない、毛糸の靴下をかぶった「ニットソックス」でしかできない作品づくりのために、使命感にも似た漲る力が四人の自信になります。
ミュージカル初日の12月17日。ラストナンバーはトムによるものでした。トムはアフガニスタンから養子縁組された孤児でした。同じ一つの世界に住んではいるけれど、皆が同じ悲しみや喜びを抱いているわけではありません。けれども、今までのあらゆる経験を糧にすれば、生きているだけですばらしいと締めくくり、スタンディングオベーションで舞台を成功させました。
エスコ=ペッカ・ティーティネンの創作活動は、絵本、児童書、小説と幅広く、映画や舞台、放送作家としても活躍しています。名作童話集『Hippiäinen(小さな鳥のはなし)』(2008)では、極北の自然に生きる小鳥やトナカイや牛を通して、どんな小さな生きものも大きなものをもった存在で、温もりをもとめて関わり合いながら私たちは生きているということを教えてくれます。『ニットソックス』はフィンランディア・ジュニア賞を受賞しました。
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