【抜粋訳:pp. 62-63】
バラード
靴のなかに手を突っこんだら、たまたまパパのだった。靴にも名前をつけてあげたくなるときがある。でも、つけても、より人間みたいになるわけじゃないから、つけなかった。
ピンクのハイヒールの踵はピンととがった釘みたい。これで木の床は歩いちゃいけない。深い傷跡を残すから。ママは履いて歩いたから、パパは怒っていた。靴を履いているママは、すらっとして、あぶなげだった。その姿を見ていたら、なめるのに一日かかりそうな高価なロリポップキャンディに思えてきた。
靴箱のなかには涙の靴もあった。そのなかには、だれも知らない悲しみが入っている。悲しくなると、わたしは靴箱の靴に紛れて、涙の靴をもとめて、抱きしめる。
涙の靴は、ママには履いてほしくなかった。ママに、なにか悪いことでも起こったら、それはわたしのせいかもしれないもの。いちど、ママが履いたときがあった。わたしは、フラフラしてヘンだし、いつもみたいにきれいじゃないよ、と言った。ママは、靴箱に放り投げるように戻した。危機一髪だった。
壁にかかっているフラフープをとって、靴箱に押しこもうとしたけれど、入らなかった。わかっておくべきだった。
靴箱とフラフープは、わたしの支えだったの。靴箱はわたしを引き止め、フラフープは梢のむこうの青空へ飛翔させた。
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