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Hula-hula    原書名:  Hula-hula
 (フラフープ)
 作者名:  Riitta Jalonen, 1954~
 リーッタ・ヤロネン
 出版社 / 年:  TAMMI / 2002
 ページ数:  138
 ISBN:  9513124754
 分類:  児童小説
 備考:  Aatos ja Sofian sokeriletit
 Revontulilumi
 Minä, äiti ja tunturihärkki
 Tyttö ja naakkapuu

【要約】

「靴箱とフラフープが、わたしの支えだったの」と、ヘッラは振り返ります。11歳の少女ヘッラにとって、安全だと感じるのは、靴箱のなかやフラフープを回しているとき、そして、図書館の限られた空間やピアノを弾いているときでした。大人の世界は謎だらけ。働く母と主夫の父。そして、会話から漏れる父と母の不仲が、ヘッラに孤独と不安を掻きたたせ、関与できない疎外感を与えるのでした。

経済的な理由から、ヘッラの家の二階は貸し出されていました。老婆アウリッキと工場に勤めるレイノ、そして、町のオーケストラで演奏活動をしている、オーボエ奏者アンッティにトロンボーン奏者マキネン。近いはずの両親からの眼差しは遠く、遠いはずの同居人や友人サリとの交流に、じぶんの存在を確かめるヘッラ。

秘密だらけの母との距離は縮まることなく、同居人もついには次々に引っ越すことになります。アウリッキはマイホームへ、レイノは老人ホームへ、そして、演奏家のふたりも楽器といっしょに部屋を後にしました。残されたヘッラは、森のなかへ駆けこんで砂地に仰向けになると、こう問います。砂の目には、わたしはどんなふうに映っているんだろう、と。

少女の、切なくも美しい内なる印象が綴られた小説です。

【抜粋訳:pp. 62-63】

バラード

靴のなかに手を突っこんだら、たまたまパパのだった。靴にも名前をつけてあげたくなるときがある。でも、つけても、より人間みたいになるわけじゃないから、つけなかった。

ピンクのハイヒールの踵はピンととがった釘みたい。これで木の床は歩いちゃいけない。深い傷跡を残すから。ママは履いて歩いたから、パパは怒っていた。靴を履いているママは、すらっとして、あぶなげだった。その姿を見ていたら、なめるのに一日かかりそうな高価なロリポップキャンディに思えてきた。

靴箱のなかには涙の靴もあった。そのなかには、だれも知らない悲しみが入っている。悲しくなると、わたしは靴箱の靴に紛れて、涙の靴をもとめて、抱きしめる。

涙の靴は、ママには履いてほしくなかった。ママに、なにか悪いことでも起こったら、それはわたしのせいかもしれないもの。いちど、ママが履いたときがあった。わたしは、フラフラしてヘンだし、いつもみたいにきれいじゃないよ、と言った。ママは、靴箱に放り投げるように戻した。危機一髪だった。

壁にかかっているフラフープをとって、靴箱に押しこもうとしたけれど、入らなかった。わかっておくべきだった。

靴箱とフラフープは、わたしの支えだったの。靴箱はわたしを引き止め、フラフープは梢のむこうの青空へ飛翔させた。

文/訳 末延弘子 リーッタ・ヤロネン著『フラフープ』(2002)より


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