【抜粋訳:pp.32-34】
「だれのために巣穴をほろうか?」ソフィアは手袋にくっついた雪のかたまりを巣穴にはらい落としながら言いました。
「どんなに大きな動物でもだいじょうぶよ」
「なんとも言えない。夜のうちにやって来て、ねむるかもしれない。明日また見にこよう。だれかが来たら、この松ぼっくりが動いているはずだよ」
アートスは松ぼっくりを針葉のうえにのせました。
「もしもだれも来なかったら?」
「そのときは目に見えないものを世話しよう」
「どうやって目に見えないものの世話ができるの?」
「心で」
「アートスが熱を出したとき、明日にはきっとよくなって遊びに行けるって、わたし、心で思っていたわ」
ソフィアはにっこり笑いました。
アートスの胸は高鳴って、上着をぎゅっと押さえました。
アートスはすぐにでも屋根裏の収納箱の中身のことをソフィアに話したくなりました。でも言葉が出てきません。
「ぼくの口はテープでふさがってる?」
アートスはソフィアを振り返ってたずねました。
「まさか」
「いや、ときどきそうなんだ」
ソフィアは、アートスがどんなにたいせつなことを言おうとしているのかわかっていないようでした。
「今からこのなかに入れるよ」
アートスは雪の巣穴のなかに、目に見えないなにかを落としました。
「それじゃあ、明日までアートスの心の世話をして、つぎはわたしの心ね」
|