【要約】
物語は、研究者の父アートスとサマーコテージで夏を過ごしていたユストゥスが、井戸に落ちて出られなくなったカエルの王さまを助けたことから始まります。助けてもらった恩返しをしたいと、カエルの王さまは豪華な料理を用意したり、サウナを焚いたり、コンサートを開いたり、名入りのカヌーをプレゼントしたりして、父子を驚かせます。見なれていたはずの静かな湖畔が、小さな生きものたちで賑わう神秘的な空間に変わり、一つの出来事は新たな一つとの関連性を持ちながら、物語は動的に展開してゆきます。
湖畔という一つの空間に、多くの生きものたちの視線が行き交います。それはときにユストゥスの視線となり、ときにトンボ女王やドクター・ミツバチやモグラの視線となり、それらが複雑に絡み合って湖畔世界を豊かに織りあげます。
カエルの王さまの盛大な帰還パーティに集う来賓客、夜会服が窮屈すぎて気絶したトンボ女王、それを介抱するドクター・ミツバチ。森に迷いこんだペットのモルモットの不安と森の住人たちの動揺。モグラに育てられた妖精は、やがてタカにさらわれ、クマゲラの巣に放り投げられ、自分は一体誰なのかと悩みながらも、最後は妖精たちの羽根の島で幸せに暮らすという親指姫のような挿話。
見ようと思えば、世界はいくらでも精緻で多様です。ユストゥスは月の光を見てこう思いました。
「この美しさは見ないと見えない」
ある湖畔をめぐる11の物語。
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