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Orava ja pääskynen    原書名:  Kiitollinen sammakko ja muita satuja järviseudulta
 (カエルの王さまの恩返し)
 作者名:  Maria Vuorio, 1954~
 マリア・ヴオリオ
 出版社 / 年:  TAMMI / 2009
 ページ数:  111
 ISBN:  9789513150174
 分類:  児童書
 備考:  Orava ja pääskynen
 Jäiksen housuissa

【要約】

物語は、研究者の父アートスとサマーコテージで夏を過ごしていたユストゥスが、井戸に落ちて出られなくなったカエルの王さまを助けたことから始まります。助けてもらった恩返しをしたいと、カエルの王さまは豪華な料理を用意したり、サウナを焚いたり、コンサートを開いたり、名入りのカヌーをプレゼントしたりして、父子を驚かせます。見なれていたはずの静かな湖畔が、小さな生きものたちで賑わう神秘的な空間に変わり、一つの出来事は新たな一つとの関連性を持ちながら、物語は動的に展開してゆきます。

湖畔という一つの空間に、多くの生きものたちの視線が行き交います。それはときにユストゥスの視線となり、ときにトンボ女王やドクター・ミツバチやモグラの視線となり、それらが複雑に絡み合って湖畔世界を豊かに織りあげます。  カエルの王さまの盛大な帰還パーティに集う来賓客、夜会服が窮屈すぎて気絶したトンボ女王、それを介抱するドクター・ミツバチ。森に迷いこんだペットのモルモットの不安と森の住人たちの動揺。モグラに育てられた妖精は、やがてタカにさらわれ、クマゲラの巣に放り投げられ、自分は一体誰なのかと悩みながらも、最後は妖精たちの羽根の島で幸せに暮らすという親指姫のような挿話。

見ようと思えば、世界はいくらでも精緻で多様です。ユストゥスは月の光を見てこう思いました。
「この美しさは見ないと見えない」

ある湖畔をめぐる11の物語。

【抜粋訳:pp. 14-16】

「ありがとう」ユストゥスははにかみました。
 こんなふうに動物と人間が自然のなかで遭遇することは、そうあることではありません。とても勇気がいりますが、このカエルはカエルのなかの王さまです。しかも、恩返ししたかったのです。だから、ほかのカエルにはできないことができました。
 ユストゥスもおなじ気持ちでした。カエルのおかげで、父のアートスを、めずらしいランの群生地に案内できました。これで、父の仕事もはかどります!
「ああ、この恩をどうやって返せばいいんだろう!」ユストゥスはうれしくて声をあげました。
 カエルはびくっとしてぷうっとふくらむと、「かまわないでくれ!」とさけびながら、スイレンの葉のバイクにあわてて飛びのりました。
 ユストゥスは、カエルの王さまが困っていることもわからずに、きちんとお礼を言いたくて手をのばしてつかまえようとしました。すると、カエルの王さまは、葦の茂みに飛びこんだきり、もう姿をあらわしませんでした。
 カエルがぱったりといなくなって、ユストゥスの父アートスもおどろきました。人間はよいことにはすぐになれてしまうものです。すべてはまるで魔法をかけられたかのようでした。
 つぎの日の朝、ユストゥスはカエルからもらったカヌーがあるかどうかたしかめに行きました。たしかにありました。カエルの恩返しはほんとうだったのです。カエルには、おとぎ話も夢でもなく、すべてがほんとうでした。自然は不思議でいっぱいです。

文/訳 末延弘子 マリア・ヴオリオ著『カエルの王さまの恩返し』(2009)より


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