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Orava ja pääskynen    原書名:  Orava ja pääskynen
 (リスとツバメ)
 作者名:  Maria Vuorio, 1954~
 マリア・ヴオリオ
 出版社 / 年:  TAMMI / 2007
 ページ数:  98
 ISBN:  9789513139063
 分類:  児童書
 備考:  Kiitollinen sammakko ja muita satuja järviseudulta
 Jäiksen housuissa

【要約】

秋も深まって、森では冬支度が始まりました。リスはリンゴや木の実やベリーを貯えて、冬服へ衣替えしようと思っていたところでした。そんなある日、リスは仮死状態のツバメを見つけました。このツバメは、ほかの仲間の渡り鳥と南へ行くことができずに森に取り残されていました。

リスは、モミの木に建てた自分の家に連れて帰り、苔の毛布をかけて暖めました。献身的なリスの世話のおかげで目を覚ましたツバメは、未知の「冬」に出会い、逃げだしたいと泣きだします。リスにとってはよく知っている冬が、冬が初めてのツバメには恐ろしくてたまらなかったのです。ツバメをなんとか元気づけようとしますが、ツバメの言葉はリスにはわからず、リスの言葉もツバメに通じません。リスは、レンジャクから『鳥語レッスン』という鳥の言葉の本を借りてひっしで覚えたり、都会に住む友だちのハリネズミから、冬に備えてビン詰め保存していたハエを分けてもらったりしました。

仲間たちも、リスとツバメの共同生活が気になってしかたないようでした。留鳥のスズメや地中で暮らしているモグラやトガリネズミがもの珍しさからリスの家を訪ねてきました。ツバメは冬に戸惑っていました。虫も飛んでいないし、ドアを開けると寒いし、地に足をついていないせいか飽きっぽく、群れに馴染めませんでした。ハリネズミからもらったハエは底をつき、リスは、レンジャクが教えてくれた鳥の避難所を頼ることにしました。そこは、仲間の渡り鳥からはぐれてしまったり、南へいっしょに渡ることができなかったりした鳥のための避難所で、地上からは見えないところにありました。ツバメの背に乗って、リスは避難所へ向かいました。地上とくらべて、山も谷も石も穴もなく、「鳥の道はうんと楽でした」。リスは、ハエのお礼に木の実をわたしました。

リスとツバメは、しだいに森の共通の言葉で話すようになりました。あるとき、友人のハリネズミを訪ねに町にでたリスが、ドブネズミに襲われて足に傷を負って帰ってきました。ツバメは、歌を歌ったり、木の実の花のお茶を入れてあげたり、レンゲ蜜を飲ませてあげたり、自分の羽毛を引っこ抜いて毛布にしてあげたりして、リスを介抱しました。親戚ではない森のリスも、仲間のために親身になって看病しました。

冬時計の針がそろそろ春を指し、薄ら氷が割れて雨が木の芽を起こし、クマゲラのドラミングが聞えるころ、リスはツバメとの別れを思いました。夏になれば、リスはリスと、ツバメはツバメと、これから伴侶をえて幸せな家庭を築くからです。

鳥の避難所の春まつりに、リスは特別に招かれました。冬の木の実のお礼に、一足はやく夏の緑の葉っぱをプレゼントされました。リスは、ツバメが新しい伴侶を見つけて空高く飛んでいるのを見て、「ぼくのツバメが飛びたった」と思いました。夏の服に着替えるころ、リスは森で出会ったリスと結婚しました。ツバメがとまっていたモミの木の家の空中ブランコは、子リスの遊び場になりました。

【抜粋訳:pp. 64-67】

「これからはどっちもわかる言葉で話したほうがいいわ」ツバメが言いました。
「ぼくもそう思う。きみとぼくは、とてもちがっているもんね」リスは、ツバメのことをわかろうとがんばっていたことを思い出しました。
「ちがうの!?」ツバメはぎょっとして、リスの言葉にきずつきました。
 鳥というのは、ちょっとしたことでもびくっとするのです。ツバメは、リスが自分の友だちではなくなったとかんちがいしていました。木の実をせっせと割ったり、床まで掃除したり、スプーンでレンゲ蜜を飲ませたりしたのも、リスを思ってやったことでした。友情のために、自分の胸の羽毛を傷口に当てたり、夜に翼で暖めてあげたりしました。看病しているあいだ、いっときも離れず、飛ぶことすら忘れていました。リスは知らないわけはありません。飛ぶことをツバメがどんなに愛しているかということを。
 ツバメはくるりと背を向けました。
「これでもがんばったんだよ」ツバメが機嫌を悪くしてそっぽを向いたので、リスは申し訳なさそうにつぶやきました。ツバメの言葉をとうとう覚えられなかったことを、リスも残念に思っていました。こんな出来の悪いリスといっしょに住むのは、ツバメにとってはきっとつらかったはずです。でも、鳥の言葉の入門編でリスは大きな壁にぶつかったくらい、リスの言葉とツバメの言葉がちがうのは事実でした。
「わたしを追いだすの?今すぐに?」ツバメはあまりのショックでくらくらしました。
 空の風に乗って飛び立つ日を今か今かと待っていたけれど、こんな氷点下に飛んだらまちがいなく死んでしまいます。
「そんなつもりで言ったんじゃないよ。ぼくの言い方がまずかったのかもしれない。共通の言葉で話しているのに、ぼくたちはわかっていないね」
 リスが言い終えないうちに、ツバメはうなだれて翼を引きずりながらドアに向かっていました。
「ツバメ!」リスはケガをしているのもかまわずにすっとんでツバメをつかみました。リスとツバメは凍てつく冬の空気を顔にあびて、すうっと吸いこみました。リスはツバメを引っぱって中にいれて、ドアを閉めました。
 二人はしばらくその場に座りこんでいました。まだ、リスとツバメがおたがいのことをよくわかっていなかったころのように。あのとき、リスがビン詰めのハエをもってあわてて家に帰ってきて、ツバメは心臓がとまるくらいおどろいたものでした。
 リスはツバメを見ました。ツバメはリスを見ました。二人は手を取りました。
「きみが旅立ってしまう日がくることはわかっていても、ぼくはぜったいにきみを追い出したりしないよ、ぜったいに」リスはのどを詰まらせながらそっと言いました。
 ツバメはリスの胸に飛びこんで、泣きふせました。
「ぜったいにここから出ていかないわ!」
「それはだめだよ。夏が来たら、ぼくはきみに飛び立ってほしい。ぼくたちは、これからそれぞれ結婚して、幸せに暮らすんだから。きみはツバメと、ぼくはリスと。そうなるはずなんだ」リスは涙をぬぐいました。
「わたしにはリスしかいないのに」ツバメはうっうっと泣きながら言いました。
 リスはツバメの濃紺の背中をそっとなでました。
「今はいなくても、すぐにできるよ。春が来れば。夏にはきっと」リスはそう言ったとたん、うれしいはずなのに、へんにさみしくなりました。
 どちらもなにも言わず、あたりにはリスが作った冬時計のカチカチという秒針の音が響いていました。
「ぼくのそばにいてくれてありがとう、ツバメ」ついにリスが言いました。
「こちらこそ、ありがとう!リスがいなかったら、わたしたち二人とも死んでいたわ!」ツバメはリスに抱きついて言いました。
「いえいえ」リスははずかしそうに言いました。

文/訳 末延弘子 マリア・ヴオリオ著『リスとツバメ』(2007)より


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