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Nottingham kesällä kello 6    原書名:  Nottingham kesällä kello 6
 (待ち合わせは夏のノッティンガム朝6時)
 作者名:  Tuija Lehtinen, 1954~
 トゥイヤ・レヘティネン
 出版社 / 年:  OTAVA / 1999
 ページ数:  287
 ISBN:  951120663X
 分類:  YA
 備考:  Rebekka ja talven taikaa
 Rebekka ja kesäprinssi
 Sara@crazymail.com

【要約】

夏休みを前にして、パンク少女サラの周りでは、同級生たちがアルバイト探しや新たな進路に向けて動き出そうとしていました。ボーイフレンドのラウスキは音楽学校を目指し、不良仲間のペッレは経営者になるべく商業学校へ、ロマンチストなモナ・リザはどうやら創作や小説を勉強する表現学校に進学したい様子。そんな仲間を横目にしながらも、「じぶんは?」と焦るサラ。校長のインケリからは高校進学を勧められてはいるものの、両親の離婚、父の失踪、親友ニナの自殺で止めてしまったフルートの道を捨てきれません。

そして、もうひとつの気がかりは、チャットで知り合った謎の少年マークと交わしたデートの約束。「待ち合わせは夏のノッティンガム朝6時」。新しい人生の扉が開くかもしれないと、サラはフルートを手に陸路でイギリスへ向かい、マークとの出会いを通して、ひょんなことから夏のアルバイトまで手に入れることになりました。マークは何人ものおかかえ従事をしたがえた富豪の跡継ぎでした。その暮らしを優雅に満喫しながら、知り合いの上流階級の家で、お手伝いとして数週間のアルバイトに精を出すサラ。お手伝いするのは、落馬して下半身不随になったシモーネでした。塞ぎがちで、神経質で、わがままなシモーネから、サラは生きる意志とじぶんらしさを荒療治ながらも引き出します。サラもじぶんの可能性を試すべく、地元バンド「シャーウッド・スノット」でインストゥルメンタルを担当し、大成功を収めます。

シモーネが愛馬ファイアーと再会することによってじぶんを取り戻したように、サラはフルートを演奏することで、本来のじぶんを見つめ直します。祖母危篤の知らせを受けて帰国したサラに、祖母はフルートレッスンと高校進学を提案します。ラウスキもモナ・リザもヘルシンキの高校に進学することになり、叔父のイユルキも昇進してヘルシンキへ転勤に。祖母の家も売りに出され、サラは決断に迫られます。はたして、サラの決断は?サラはどんな目標を抱き、どんな挑戦をこれから受けるのでしょうか?

プラッタ賞を受賞した『Sara@crazymail.com(Sara@crazymail.com)』(1998)に続く第二弾。物語は『サラはだれにも止められない(Sara ja levottomat jalat)』(2001)に続きます。

【抜粋訳:p.284】

ブザーが鳴って、ドアが開いた。あたしは建物のなかへ進んで、エレベーターに乗る。思い出が弾けるように頭のなかに溢れだした。練習をサボったときは、レッスンに行くのが怖かったな。でも、そんなことはめったになくて、とりつかれたように弾いていたけど。
昔、フルートを習っていたアーダ・イッサカイネン先生とコーヒーを飲みながら、たわいもない話をしたあと、あたしはこう切りだした。
「あたしはこのままフルートのレッスンを続けていくべきかどうか、先生にはっきり言ってほしいんです」
先生はこくりとうなずいた。あたしはフルートを取りだして、ためらいがちに吹き始めた。しだいにためらいも消えていったけれど、ブランクを痛感せずにはいられなかった。先生は最後までじっと聞いて、演奏が終わってもしばらく口を開かなかった。そして、ついにこう言った。
「あなたのなかには情熱と勢いがあるわ。才能よ。それを使わないでおくのは、もったいないわ」
「また通わせてほしいんです」と、あたしは言うと、じぶんのなかで小さな炎がゆらめくのを感じた。

文/訳 末延弘子 トゥイヤ・レヘティネン著『待ち合わせは夏のノッティンガム朝6時』(1999)より


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