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Rebekka ja kesäprinssi    原書名:  Rebekka ja kesäprinssi
 (レベッカと夏の王子さま)
 作者名:  Tuija Lehtinen, 1954~
 トゥイヤ・レヘティネン
 出版社 / 年:  Otava / 2007
 ページ数:  206
 ISBN:  9789511214885
 分類:  児童書
 備考:  Rebekka ja talven taikaa
 Nottingham kesällä kello 6
 Sara@crazymail.com

【要約】

赤毛の三つ編みにそばかす顔のレベッカは、明るくて天真爛漫な一三歳の女の子。新学期が始まる秋を前に、家族みんなで住み慣れた小さな島から町へ引っ越してきました。牧師の父と画家の母、そして、兄と妹二人に小犬たちが、レベッカ・ピリネンの家族です。母親は小犬のブリーダーもしていて、ドッグショーに余念がありません。兄のモーセスは世界的ギタリストを夢みてつまらない毎日に反抗し、中国から国際養子縁組したセルマとサイマは遊ぶことが大好きないたずらっ子で手を焼いています。

町に住んでいるモーセスと同い年のいとこのイェンニは、ファッションやヘアスタイルやメイクや友だちとのつき合い方をレベッカに押しつけがましくアドバイスします。遊ぶのが楽しいと思うことはいけないことなのか、大人にならなきゃいけないのか、レベッカはふと思いますが、赤毛の三つ編みも切らず、そばかすも隠さず、妹たちとの人形遊びも止めません。飾らない自然児のレベッカは、不良グループや強面のボクシング少女サイヤにも物おじしません。

町に越してきて一三歳の誕生日を迎えたレベッカが、野原で摘んだタンポポを花輪にして踊っていたら、そこに釣り竿とバケツを持った少年が現れました。ジェリーと名乗る少年は、その後もたびたび同じ場所に現れて、釣りデートにも誘われて、レベッカはジェリーを夏の王子さまとひそかに呼ぶようになります。

一方、レベッカの誕生日パーティで、レベッカは同い年で内気な聖堂番の娘ウッラと仲良くなり親友になります。モーセスが堅信式に出かけている間、レベッカは念願のモーセスの部屋を自分の部屋に模様替えします。離れの尖塔にある部屋に、ウッラが泊まりにきたり、悲劇のゲノフェーファ王女物語を読んでみんなでロールプレイングを楽しんだりして、夏休みを過ごします。モーセスは、堅信式で意気投合したギターを弾くオッリと、バンドを結成するつもりです。

夏の王子さまにまた会えることを願って、物語は「レベッカ」シリーズ第二弾『Rebekka tarttuu toimeen(レベッカ、学校へ行く)』(2007)へ続きます。第二弾では、いよいよ新学期が始まります。

【抜粋訳: pp. 40-42】

 レベッカは、柄物のロングフリルスカートに白いトップスを着ていました。スカートは、お母さんが学生のころに仮装大会でつけていたもので、レベッカには少しゆるかったので、スカートがずり落ちないように黒いスカーフでウエストをきゅっと縛りました。レベッカは、裸足になって髪をほどいて踊っていました。髪は赤いマントのようにふわりと広がってはためいて、太陽の光を浴びてきらきらと金色に輝きました。一二時一二分になると、手にしていたタンポポの花輪を空にかかげて頭に載せました。そしてしばらく目を閉じて、三回となえました。
「一三、一三、一三」
 連れてきていた四匹の犬がうなりだしたので、レベッカは目を開けて見おろしました。そこには一匹しかいません。ほかの犬たちは、二〇メートルくらい向こうの森の外れで、ぽかんと口を開けてレベッカを見ている少年を囲んでいました。この辺で見かけない少年でした。少年は片手に釣り竿を持ち、片手にバケツを持っていました。カスパーがバケツに顔をつっこんだので、なにか捕まえていたにちがいありません。
「あなたがなにもしなけりゃ、犬たちはおとなしくしてるから大丈夫よ」レベッカは少年に向かって呼びかけました。
「べつに犬は怖くない」少年はレベッカのほうに歩いてきました。
 犬たちは少年の足を鼻で突ついて、疑わしげにまとわりついています。少年はおろおろしながら、そのままレベッカに向かってきました。レベッカは石から下りて、少年をまじまじと見ました。レベッカよりも年上のように見えますが、高校生ではなさそうです。切りっぱなしのジーンズのショートパンツ、よれよれのTシャツ、履きつぶしたスニーカー。釣りにはもってこいの服装ね、レベッカはそう思いながら、バケツの中身をぐいっとのぞきこみました。ところが、うっかり前のめりすぎて、そのままバランスを崩して地面に顔面衝突しそうになりました。
(ひえっ、どうしよう)レベッカはそう思いながら、石をつかもうとしましたが、つかむ場所がありません。
「まさか、飛べるわけないだろ」少年がすんでのところで腰をつかんで、怪我しないように地面に下ろしました。
「飛ぶわよ、夜にね」レベッカはきまり悪そうに言いました。
「でも、ありがと。ベッティナ、カスパー、ダイアナ、ファラオ、おとなしくして!」
 四匹は、知らない人がレベッカに触れたことでますます不審を募らせていました。少しは落ち着きましたが、まだ警戒しています。少年はレベッカに釣った魚を見せました。中には淡水魚のパーチが数匹入っていました。つかまえた魚は、隣の家のネコにあげたり、魚のスープにしたりするんだと言いました。
「島にいるときは、毎日、新鮮な魚を食べていたわ。家に専用の漁網があったの」レベッカが言いました。
 少年は少し驚いた様子でレベッカを見ました。網を引いたり、風にさらされながら歯を食いしばってボートを漕いだりするようなイメージじゃないと、少年はぼそっと言いました。
「じゃあ、どんなイメージなの?」
「なんか森の生き物みたいな、妖精みたいな、そんな感じ。タンポポの妖精」
 レベッカはぷーっと吹きだし、少年はかあっとばつが悪そうに顔を赤らめました。笑ったことで傷つけてしまったと思ったレベッカは、いつもはその反対だから笑ったのだと言いました。
「今日はわたしの誕生日なのよ。一二時一二分に一三歳になったの。それで、祝福のダンスを踊ってたってわけ」
「へえ」少年は、レベッカが人間なのか伝説の生き物なのか、まだ信じていない様子です。
「わたしは牧師館のレベッカ。あなたは?」レベッカが聞きました。
「ジェリー」少年が言いました。

文/訳 末延弘子 トゥイヤ・レヘティネン『レベッカと夏の王子さま』より


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