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juoksuhaudantie    原書名:  Juoksuhaudantie
 マイホーム
 作者名:  Kari Hotakainen, 1957~
 カリ・ホタカイネン
 出版社 / 年:  WSOY / 2002
 ページ数:  334
 ISBN:  9510273155
 分類:  小説
 備考:  2002年度 フィンランディア 賞受賞作
 2002年度 北欧閣僚評議会文学賞受賞作
 Punahukka
 Näytän hyvältä ilman paitaa
 マイホーム

【要約】

2DKアパートに住み、家庭の主夫として全ての家事をこなす主人公マッティ・ヴィルタネン。 喧嘩の最中に妻に手を上げたことで、崩壊しそうな家庭をもう一度取り戻そうと考えあぐねた案は、 長年の妻の夢でもあったマイホームを手に入れることだった。胸に心拍計を手に双眼鏡とメモ用紙を持ち、 とり憑かれたようにめぼしい一軒家を探し、かつて前線で戦った退役軍人の住む塹壕通りの家に目をつける。 家庭戦線で戦うマッティは、退役軍人に自分の身を重ね合わせながら、朝から晩まで粉骨砕身に働くのだ。 不動産屋の仲買業者との駆け引き、自分の人生との駆け引き、夫婦の役割分担の駆け引きを、 それぞれの登場人物の対話に投影させながら巧妙に物語が進んでゆく。 強迫観念に縛られた男に潜む一途なまでの行動が、物語の進行に拍車をかける。 フィンランドのマイホーム獲得競争への社会批判も盛り込んだこの作品は、2002年度のフィンランディア 賞受賞作品であり、北欧閣僚評議会文学賞受賞作であり、フィンランドで映画化された作品だ。 また、不動産業界から仲買業者の人物像を浮き彫りにしたとして表彰されている。

【抜粋訳:pp.14-15】

あんな家が欲しかった。

ぞくぞくして、石の上に登った。太陽があたまからぎらぎらと照りつける。きっと、熱さからくる脱水症状のせいで気が昂ぶっているんだろう、と思った。昂ぶる気持ちから解放されたくて遠くまで行った。

赤い家から200メートルくらい先まで歩いて、今までの事を繰り返し整理してみる。

僕は、生まれてからずっとアパート住まいだ。そして、シンプルで気のおけない住居形態が気に入っている。今までに、マイホームについての本は読んだことはあるけれど、買う気を起こさせるような、ぱっとくるようなものを何も感じられなかった。むしろ、リフォーム代やら、水漏れする管やら、暖房費用のことを考えると恐ろしくなったくらいだ。

僕は家路を急いだ。さっきの男性と女性、そして二人の赤い家が、噴き出してくる汗とと一緒に余すところなく流れ落ちてくれますように、と思いながらシャワーを浴びる。そして、一服しようとバルコニーに座ってもあの赤い家が依然として目に浮かんでくる。

これは何だ?少なくとも夢ではない。夢というのは穏やかな感情だ。話し相手の反応を味わいながら、ゆったりと構えて話すものだ。夢というのは家族の中だけの話だ。子どもが成長した後にいつか叶えられるようなものであっても、快く話題に上るものだ。

子どもを寝かしつけたあと、何千というアパートで、町外れの小さなマイホームの夢を見る。見積もりを立てて、雑誌をパラパラめくって、日曜日にオープンハウスに足を運んでは溜息を吐くものだ。

ただ、一体全体、このことと僕とどんな関係があるんだ?願望は僕のものではなく、妻へレナのものだということに気がつくと、すべてのことがぱっと鮮明に蘇った。頬を紅潮させながら、友達夫婦の家や庭やテラスについて語っていたヘレナの様子を。魅力的なディテールについて、地下室の勝手について、そしてインテリアについて繰り返し繰り返し話していた様子を。彼女がこの地域をひどく望んでいた様子を。

僕はといえば、聞く気もせずに、家事でぐったりと疲れてソファでうとうとしながら生返事をしていた。週末になると、この地域まで散歩に誘われたけれど、僕はそれ以上にほかにやることを捻り出すばかりだった。

彼女は家が欲しかった。
僕は家族が欲しかった。
家をもてばきっと上手くいく。
僕は準備に取りかかった。

文/訳 末延弘子 カリ・ホタカイネン著『マイホーム』(2002)より


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