【抜粋訳:pp.14-15】
あんな家が欲しかった。
ぞくぞくして、石の上に登った。太陽があたまからぎらぎらと照りつける。きっと、熱さからくる脱水症状のせいで気が昂ぶっているんだろう、と思った。昂ぶる気持ちから解放されたくて遠くまで行った。
赤い家から200メートルくらい先まで歩いて、今までの事を繰り返し整理してみる。
僕は、生まれてからずっとアパート住まいだ。そして、シンプルで気のおけない住居形態が気に入っている。今までに、マイホームについての本は読んだことはあるけれど、買う気を起こさせるような、ぱっとくるようなものを何も感じられなかった。むしろ、リフォーム代やら、水漏れする管やら、暖房費用のことを考えると恐ろしくなったくらいだ。
僕は家路を急いだ。さっきの男性と女性、そして二人の赤い家が、噴き出してくる汗とと一緒に余すところなく流れ落ちてくれますように、と思いながらシャワーを浴びる。そして、一服しようとバルコニーに座ってもあの赤い家が依然として目に浮かんでくる。
これは何だ?少なくとも夢ではない。夢というのは穏やかな感情だ。話し相手の反応を味わいながら、ゆったりと構えて話すものだ。夢というのは家族の中だけの話だ。子どもが成長した後にいつか叶えられるようなものであっても、快く話題に上るものだ。
子どもを寝かしつけたあと、何千というアパートで、町外れの小さなマイホームの夢を見る。見積もりを立てて、雑誌をパラパラめくって、日曜日にオープンハウスに足を運んでは溜息を吐くものだ。
ただ、一体全体、このことと僕とどんな関係があるんだ?願望は僕のものではなく、妻へレナのものだということに気がつくと、すべてのことがぱっと鮮明に蘇った。頬を紅潮させながら、友達夫婦の家や庭やテラスについて語っていたヘレナの様子を。魅力的なディテールについて、地下室の勝手について、そしてインテリアについて繰り返し繰り返し話していた様子を。彼女がこの地域をひどく望んでいた様子を。
僕はといえば、聞く気もせずに、家事でぐったりと疲れてソファでうとうとしながら生返事をしていた。週末になると、この地域まで散歩に誘われたけれど、僕はそれ以上にほかにやることを捻り出すばかりだった。
彼女は家が欲しかった。
僕は家族が欲しかった。
家をもてばきっと上手くいく。
僕は準備に取りかかった。
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