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Minä, äiti ja tunturihärkki    原書名:  Minä, äiti ja tunturihärkki
 (わたし、おかあさん、ミミナグサ)
 作者名:  Riitta Jalonen, 1954~
 リーッタ・ヤロネン
 出版社 / 年:  TAMMI / 2005
 ページ数:  47
 ISBN:  9513133591
 分類:  絵本
 備考:  Aatos ja Sofian sokeriletit
 Revontulilumi
 Hula-hula
 Tyttö ja naakkapuu

【要約】

おかあさんと幼い娘の二人旅。娘のサリは、おかあさんの運転する車に乗って、おかあさんの思い出のラップランドとノルウェーを旅します。ラップランドでトナカイを見て、アルタ(ノルウェーの古代文化の遺跡が残る町。1万年前のコムサ文化で有名)の森にテントを張って、北極海を望みながらお昼ごはん。でも、ほんとうの理由は、おかあさんが子どもの頃に摘んだミミナグサ(タカネミミナグサ)を元の場所に返すためでした。

おかあさんはどうしてミミナグサを元の場所に返すんだろう?どうして、じぶんにはおかあさんのようなそばかすがないんだろう?子どもを身ごもったヘラジカの壁画に、どうしてわたしはこんなに惹かれるんだろう?

そういった疑問を、娘はあえておかあさんに問いません。問わずに、おかあさんから自立してじぶんの道を歩んでゆこうとする娘の心のなかに起こった変化を、ヤロネンは情緒豊かに表現しました。イラストは、前作『 とまり木と少女』(2004)に引き続き、クリスティーナ・ロウヒが描いています。

【抜粋訳:pp.30-42】

ミミナグサはおかあさんのリュックのなかにある。さっき、おかあさんが、発泡スチロールをはずして、リュックのなかに入れていたのを見たから。だから、きっとミミナグサはリュックの底でぽろぽろになって、紙には薄っぺらいテープと白い付せんしか残っていないと思う。

(・・・)

おかあさんが先を歩く。もうひとつの小高い山をめざして。ミミナグサをリュックから取り出すと、おかあさんはその場にしゃがんで、岩の上でミミナグサを留めてあった紙を折りはじめた。わたしが追いついて頂上に着いたら、おかあさんは紙ひこうきを空に飛ばした。紙ひこうきは風にさらわれて、山の斜面に沿って海へと滑っていった。ミミナグサはしばらく鳥のように滑空して、そして姿を消した。

おかあさんは秘密、そう思った。わたしはちょっと距離を置いた。だって、秘密はじっと見られるのがいやだから。じろじろ見られると、急いでどこかに隠れてしまう。わたしは、おかあさんと秘密にどこにも行ってほしくないの。

(・・・)

おかあさんとわたしは早めに駅に着いていた。愛車バミの積荷にもよゆうがあったし、寝台列車には出発前から乗りこんでいいってことを、おかあさんは知っていたから。(・・・)わたしが二段ベッドの上で寝るのも、おかあさんはぐらぐら揺れる場所が怖いから。おかあさんはテーマパークにも行ったことがないし、観覧車にも乗ったことがない。おかあさんはいつだって森に連れられて、植物や鳥の観察をしていたの。

「ここは気持ちがいいよ」

わたしはそう言って目をつむった。そうしたら、ミミナグサがさっきみたいに目の前で揺れた。小さく、ふわりと。それを天井めがけてふうっと吹きとばして、くるくる下に回転させて、開いた窓から外へ出した。ミミナグサは家に帰ったの。北極海の上空でふわふわ漂って、じぶんの場所を、じぶんで、じぶんのために探していた。

文/訳 末延弘子 リーッタ・ヤロネン著『わたし、おかあさん、ミミナグサ』(2005)より


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