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Tyttö ja naakkapuu    原書名:  Tyttö ja naakkapuu
 (とまり木と少女)
 作者名:  Riitta Jalonen, 1954~
 リーッタ・ヤロネン
 出版社 / 年:  TAMMI / 2004
 ページ数:  47
 ISBN:  9513130851
 分類:  絵本
 備考:  Aatos ja Sofian sokeriletit
 Revontulilumi
 Hula-hula
 Minä, äiti ja tunturihärkki

【要約】

母親と一緒に新境地へ向かう少女は、鉄道駅でコクマルガラスが止まっている大きな木を目にします。ふいに前触れもなく一羽が飛び立つと、バサバサと羽音をたてながら後を追うようにいっせいに飛び去ってしまいます。そして、ぽつりと残された木を自分と重ねあわせながら、父親との思い出が映像とともに少女の心に蘇ってくるのでした。

父親の死という抗いがたい事実は、少女にどのような変化をもたらすのでしょうか。突然の孤独や不可避な喪失が、少女のモノローグと心象風景をとおして語られます。しかしながら、その風景には、悲しみの渦から一歩前へと踏み出す勇気と希望が感じられる作品です。クリスティーナ・ロウヒ(Kristiina Louhi)の柔らかくピュアな輪郭線が、少女の繊細な心の映像をいっそうきめ細やかに描写しています。

【抜粋訳: p.11】

木がゆさりと揺れだした。どこから風がふうっと吹いて、どこへみぞれを運んでゆくのか、うす暗くてわからなかった。駅の建物のむこうの北のほうから列車といっしょにきたんだとおもう。こんな風が海のうえで吹いていたら、ぐんぐんと船は進んでゆくんだろうな。

木は知っていたのよ。コクマルガラスが去ってしまったってことを。それで、さよならのつもりで手をふっているんだわ。だから、わたしも念のために手をふるの。

さみしい。わたしのなかで、その気持ちがない場所なんてない。いちばん強く感じる部分は、服のなか。でも、そのどこにあるのかはっきりとはわからない。ときどき、のどをや耳がちくりと痛くなる。めいっぱい走ったあとに感じるような痛み。のどはなんだか厚くなった感じがするし、耳はひりひりする。

さみしい気持ちがいちばん感じる場所は、だれも知らない。おかあさんにもその場所があるの。おかあさんが抱っこして話してくれたとき、わたしはなにも答えずに、じっと耳をすましていたわ。抱っこされていると、目に見えないその場所がだんだん小さくなっていったの。

訳/文 末延弘子 リーッタ・ヤロネン著『とまり木と少女』(2004)より


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