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Sara@crazymail.com    原書名:  Punahukka
 紅斑
 作者名:  Kari Hotakainen, 1957~
 カリ・ホタカイネン
 出版社 / 年:  WSOY / 2005
 ページ数:  117
 ISBN:  9510313041
 分類:  小説
 備考:  Näytän hyvältä ilman paitaa
 Juoksuhaudantie
 マイホーム

【要約】

車掌として働く中年のフィンランド人男性ペッカ。突然、ロシアとの国境沿いの町ヴァイニッカラで回心したと言い、家族や教会牧師と一波乱を巻き起こします。サンクトペテルブルグの金箔師だった兄のセッポと企んで犯した聖画像の密輸、フィンランド不況時代に亡くなった父のロシア人隠し子カティヤの遺産をくすねた罪悪感。その罪から逃れるかのように、貧困にあえぐロシア人の少年の里親となって取り組む慈善事業。家庭では、長く子どもに恵まれなかった妻エリナと、相談員カーリナとの勉強会の末に養子縁組に踏み切るものの、自分たちがはたして養親になる資格があるのかという壁にぶつかります。また、信心に目覚めたペッカの告解に、牧師マルッティは自分の信心を見つめ直し、牧師の仕事を見合わせることになります。隠し子の存在がわかった未亡人の母ヘルミは、果たしてどんなふうに事態に向き合うのでしょうか。

ホタカイネンの細やかで大胆な人物描写とコミカルで即妙なジョークが、ペッカの回心騒動によって浮き彫りになる辛い現実問題との対面を促します。

流動的で可変的な現代社会では、なにを信じるのでしょうか。商品や情報の溢れる資本主義のまっただ中で、なにに価値を置くのでしょうか。

兄セッポについては、脳溢血で倒れた父と、サンクトペテルブルグ建都300周年記念事業に金箔師として家を出た息子との物語『イサク教会(Iisakin kirkko)』(2004)で語られています。

【抜粋訳:pp.11-12】

エリナ 「あなた、そんな信心深い人じゃないでしょ。平々凡々なシベリウス列車の車掌じゃないの。教会にも一度だって行ったことないし。とっとと眠って、睡眠不足を解消したら」
ペッカ 「線路脇に金の入ったズダ袋を見つけてくれば、オレの話を聞いてくれるんだろ」
エリナ 「ちょっと!」
ペッカ 「優しい言葉でもかけてくれたりさ、耳を澄ましてよく聞いてくれたっていいじゃないか。オレはただ実体のないものを見つけただけなのに、バカにして!」
エリナ 「あたしたちは今、真実について話してるの」
ペッカ 「養子縁組はコレとは関係ない」
エリナ 「関係あるわよ。事態は重大よ」
ペッカ 「それはなにも話さずに、森の外れにただ立っていて、オレをじっと見ていたんだ」
エリナ 「バカねえ。週末のスパでケアできる程度の気の迷いでしょ。それより、ロシアから持ってきたの?」
ペッカ 「ああ。ちょっとした手土産も」
エリナに宝石を渡す
エリナ 「あら、こんなに儲かったワケ?」
ペッカ 「でも、このことも考えてるんだ」
エリナ 「あたしたちに青信号が点いたのよ。なにも考えなくていいから、眠りなさいよ」
ペッカ 「目覚めたばっかりなのに」
暗転
エリナは舞台に残る
エリナ 「自動車教習所の教官として、仕事を通して世の中を見てみます。交差点に出たら、ウィンカーを出して、左右を確認して先へ進みます。じぶんの車道を平均的なスピードで走って、急発進や急ブレーキや加速はしません。周りに注意を払います。ですが、交差点でものすごいスピードで走ってくる車もあるんです。ウィンカーも出さずに、交差点を走り過ぎてそのまま畑に突っ込んで。それで、ここに新しい道ができた、なんてわかったような顔して叫ぶんです」

文/訳 末延弘子 カリ・ホタカイネン著『紅斑』(2005)より


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