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Sara@crazymail.com    原書名:  Sara@crazymail.com
 (Sara@crazymail.com)
 作者名:  Tuija Lehtinen, 1954~
 トゥイヤ・レヘティネン
 出版社 / 年:  OTAVA / 1998
 ページ数:  251
 ISBN:  9511191187
 分類:  小説
 備考:  Rebekka ja talven taikaa
 Rebekka ja kesäprinssi
 Nottingham kesällä kello 6

【要約】

ヘルシンキで仲間と問題を起こしてしまった16歳のパンク少女サラ。神経症の母親や再婚相手の継父の手に負えず、ヘルシンキから離れた叔父の家に預けられ、「くそムカつく」新生活を始めます。サラを取り巻く環境も人生もどんよりとした「くそムカつく」ことばかり。愛想のない叔父イュルキ、自己主張ばかりする厚かましい親戚一同、愛情を独占する異父妹ピンヤ、減らず口を叩く祖母、敵対心と警戒心たっぷりの叔父の猫ディアナ、パッとしないクラスメート、いちいち気に障るイジメられっ子のモナ・リザ、サラに積極的に好意をよせるラウスキ、そして過去に苛まれる自分自身。

それでも、サラの心を惹きつけたのは、チャットで知り合った謎の少年マークでした。素性を知らないまま、サラはマークに自分についての物語をメールで送ります。親の離婚によって崩れてしまった過去の自分、従順でフルートを愛していた自分が変わってしまった経緯や原因や行為を探すように、顔の見えないマークに語るのです。けれども、サラの自分の暗い影と自我との対立を助け、新たな人生の扉を開いてくれたのは、自分とは正反対の不器用な少女モナ・リザでした。「他人を思いやったり気にかけたりしない人は、さもしいわ」と言うモナ・リザに、サラは心のなかで抑えていた感情を吐きだします。堰をきったあとに残ったのは、新たな自分が歩む新たな可能性でした。

サラはどんなふうに人生に光を見いだしたのでしょうか。絶望と失意しかなかったサラに、ふたたび希望と目標を与えてくれたものは、いったいなんだったのでしょうか?そして、謎のマークにデートに誘われたサラの返事は?

サラのヘルシンキ時代が描かれた『アスファルト兵士(Asvalttisoturi)』(1997)はトペリウス賞を、その続編としてサラを主人公にした同作品はプラッタ賞に輝きました。「サラ」シリーズは、マークとのその後を描いた『待ち合わせは夏のノッティンガム朝6時Sara Nottinghamissa kesällä kello 6)』(1999)に続きます。

【抜粋訳:p.92】

「昔々あるところに、男と女がいた。二人にかわいらしい金髪の女の子が生まれると、その子をサラと名づけたとさ」

あたしは二階に上がって、イュルキおじさんのパソコンでマークにメールを打ちはじめた。

「子どもの頃のあたしはかなりカワイかった。金髪のくるくる巻き毛にブルーアイにヤバいくらいの笑顔。音楽教室でリコーダーを始めて、何年か後にホンモノのフルートを習いだした。発表会のときなんかはヒラヒラのお姫サマドレスを好んで着て、割れんばかりの拍手にあたしはいい気分だった。うぬぼれ屋のワガママなくそガキだった。でも、周りからは、目に入れても痛くないほど大事に育てられた才能のあるカワイイ子と見られていた。実際、学校で「ほほえみ少女」トロフィーももらったし、ウィンクなんかすりゃ、男子はイチコロだった。なかでも、トニやキムはしょっちゅうあたしの気を引こうと競い合っていた。もし、あと少しでも長くあのクラスにいたら、二人の仲を割いていたと思う。でも、結局、去年の夏にあたしはキムの気持ちをズタズタにしてしまった。せっかく、ヤバいシドや不良グループから救ってくれたのに。安全な場所に連れ出してくれたのに。キムはあたしと真剣につき合いたかった。そのことは痛いくらいにわかっていたのに。あたしはキムを傷つけなくちゃいけなかった。だから、あたしはキムのダチと寝た。

だれもあたしのことを気にかけてほしくない。
あたしが心を許すたび、あたしはいつも捨てられた。
もうだれのことも気にかけたくない。
あたしを最初に捨てたのはオヤジだった」

文/訳 末延弘子 トゥイヤ・レヘティネン著『Sara@crazymail.com』(1998)より


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