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Joulupukintarina    原書名:  Joulupukintarina
 (ヨウルプッキ物語―フィンランドのサンタクロースの冒険)
 作者名:  Paula Havaste, 1962~
 パウラ・ハヴァステ
 出版社 / 年:  Gummerus / 2006
 ページ数:  181
 ISBN:  9512070294
 分類:  児童書
 備考:  

【要約】

「一年に一度だけ魔法が使える。わたしはその日に世界の子どもたちに喜びと思いやりを伝えるんだ」と、白い髭を蓄えたフィンランドのサンタクロースのヨウルプッキは、大いなる使命を語ります。ヨウルプッキは、フィンランドのお耳の山に住んでいます。子どもたちの良い行いや願い事は、お耳の山に降ってくる雪片が運んでくれます。魔法が効くのはクリスマスの一晩だけで、誕生日のお祝いで授かったお守りのオーロラ・ストーンのおかげです。その日以外は、子どもたちへのプレゼント作りや日々の仕事に精をだす普通の人と変わりません。ただ、ヨウルプッキは動物の言葉がわかり、大いなる使命に気づいてからは年もとらなくなりました。

 ヨウルプッキの大きな心に導かれるように、お耳の山の家にぞくぞくと仲間たちが集ってきます。いつかは自分も大きなことを成し遂げようと心に決めたコガラや、森で困っている動物たちを助けるカラスに、ヨウルプッキは温かい眼差しを注ぎます。家人に忘れられた家の守り神のトンットゥと呼ばれる赤い三角帽の小人たちを呼んで、クリスマストンットゥとして新たな仕事を与えて、お耳の山の家に住まわせます。増えつづけるトンットゥたちの食事の世話は、自分にできる仕事を求めにお耳の山にやってきた明るいムオリに任せられました。ムオリの魔法の鍋は、一握りの穀物から鍋いっぱいのお粥ができる不思議な鍋でした。

 クリスマスプレゼントは、最初はオーロラに乗って配っていました。ヨウルプッキが空飛ぶ魔法のトナカイと出会ってからは、お互いに使命をわかち合うようになります。空飛ぶトナカイは、隣に引っ越してきたサーメ人のサンポ・ラッパライネンが、魔の山に住んでいる魔術師スターロのもとから連れてきた黄金の角と銀色に輝く毛を纏った駿足のトナカイでした。光を奪われたスターロは魔法を使ってトロール隊を結成し、ヨウルプッキとサンポに攻撃をしかけます。トロールを意のままに操るだけではもの足りないスターロは、空飛ぶトナカイが自分のもとに帰って来ない悔しさもあって、ついに呪いの魔法を使います。スターロは、ヨウルプッキのオーロラ・ストーンを奪って、クリスマスを壊そうと企てます。  はたして、クリスマスの神聖は守られるのでしょうか?オーロラ・ストーンの行方はどうなるのでしょう?

 物語は、ラップランドの四季を通して語られます。雪解の芽吹く春、青葉と白夜の夏、紅葉とベリーやキノコの収穫の秋、そして、オーロラとクリスマスの冬の情景描写も豊かに綴られています。  史実に基づいた作品を得意とする著者は、フィンランドの北極圏に位置するロヴァニエミに生まれ、現在は、科学技術センター「ヘウレカ」のプログラムマネージャーとして活躍しています。同書は、ハヴァステの初めての児童書です。

【抜粋訳:p. 16】

「一年に一度だけ、クリスマスの夜に、いちどにたくさんの場所にいることができるんだよ。そのとき、クリスマスの奇跡を待っている子どもたちのもとに行くんだ」ヨウルプッキが言いました。
「そりゃあすごい!そんなすごいこと、どれくらいやってるんだい?」サンポ・ラッパライネンが聞きました。
「はっきりとはわからないんだ。たくさんじゃない気もするし、ずっとやってきた気もする。かぞえるのがむずかしくてね。魔法にかかったクリスマスの夜は、奇跡でいっぱいなんだ。年とか時間の意味がすっかり消えちゃうんだよ」
「その奇跡のクリスマスの夜に、いったいなにをしてるんだい?」
「子どもたちのところに行って、平和と幸せと思いやりを届けている。そのとき、ポケットにしまった小さなプレゼントをわたすんだ。一年じゅう、小さな木彫りのトナカイや、木片の鳥や、木の枝に絡みついた下苔で人形を作るのも、クリスマスに子どもたちの喜ぶ顔が見たいから」
ヨウルプッキとサンポは二人ならんで、サウナのあとの気持ちのよい静かな時間にひたっていました。もの思いにふけりながら、ヨウルプッキは細い鎖にとおした小さな石を触りました。ちょっと触れるだけで、いつもの幸せな気分になれるのです。
「それは?」サンポが聞きました。
「これは誕生日のお祝いにもらったお守りだ。わたしが生まれたとき、わたしを守ってくれる人たちがやってきて、そのときにもらった石なんだ」
「たしかにとくべつな煌めきがある。この石にしかない仄かな光があるみたいだ。すてきなプレゼントだね。すごく大事にしているのがわかるよ。でも、もうひとサウナ浴びようよ!」

文/訳 末延弘子 パウラ・ハヴァステ著『ヨウルプッキ物語―フィンランドのサンタクロースの冒険』(2006)より


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