KIRJOJEN PUUTARHA
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Joulutarina    原書名:  Joulutarina
 (クリスマス物語)
 作者名:  Marko Leino, 1967~
 マルコ・レイノ
 出版社 / 年:  Gummerus / 2007
 ページ数:  286
 ISBN:  9789512074150
 分類:  小説
 備考:  

【要約】

夏も終わりに近づいたある日、トンミとオッシの兄弟は、海に沈んでいた鍵のかかった古びた小箱を見つけます。飾り文様の美しい細工木箱の中にあったのは、壊れた銀の懐中時計と、「大切なアーダへ。メリークリスマス。兄のニコラスより」と書かれた一枚の手紙でした。

遥か遠い昔、フィンランドのお耳の山の下流の漁師村「耳の川」近くの島に、ニコラス・プッキは、漁師の父エイナリと母アレクサンドラと妹アーダと貧しいながらも幸せに暮らしていました。クリスマスに満一歳になるアーダが高熱を出し、村の医者に診てもらうために嵐の夜に舟を出した父と母はアーダとともに還らぬ人となり、孤児になったニコラスは、父が残した懐中時計とシースナイフを形見に村へ移り住みます。村の長老ギデオンと耳の川村の八家族の話し合いのもと、クリスマスの日から一年間、それぞれの家族が持ち回りでニコラスの里親になります。愛する家族を呑んだ海に臨む断崖に立ったニコラスは、埋められない絶望感に苛まれながらも、波打つ海の絶えぬ生命を前に生き抜こうと誓うのでした。

お世話になった里親家族に、感謝の気持ちを込めて木彫りの人形をクリスマスに贈るようになります。不作の年でひどい飢饉に見舞われた9年目。ニコラスを引き受けられる家族はなく、村から離れた奥深い森に住む指物師イーサッキのもとでニコラスは暮らすことに。イーサッキの地下の仕事場は、優れた職人技の細やかな工芸品で溢れていました。口が悪くぶっきらぼうなイーサッキの手ほどきを受けながら、ニコラスは腕を磨き、イーサッキはニコラスの純粋な心に触れ、穏やかさを取り戻します。やがて、イーサッキは毎年の子どもたちへのクリスマスプレゼント配りも手伝うようになり、二人はいつしか師弟を超えた親子になるのでした。

時は流れ、耳の川村の子どもは増え、イーサッキは年老いました。イーサッキの死後、ニコラスはふたたび喪失感に沈みますが、この悲しみなくして愛も優しさも知ることはなかったのだと奮起し、クリスマスプレゼントに没頭します。地下の作業場は増築されておもちゃ工場になり、最初の里親家族で無二の親友になったエーメリの娘のアーダが冬にニコラスのプレゼントづくりを手伝うようになります。トナカイは赤に従順だからと赤い服を纏ったニコラスの姿は噂となり、時とともに言い伝えとなり、「思いやりと喜びをプレゼントとともに広めたい」というニコラスの思いは語り継がれてゆきます。あるクリスマスの夜、ニコラスは姿を消します。これが最後のプレゼント配りだと決断した夜でした。孤独でありながらも大きな使命を人生に見い出し、与える喜びを知ったニコラス。ニコラスという姿はなくとも、受け継がれてゆく美しい心を知るお話です。

【抜粋訳:pp. 246-247】

「愛することは愛するものを失う恐れもあるということなんだ。それが自然であり、人生の一部なんだよ。エーメリ・・・アーダ、君のお父さんが教えてくれた。いや、教えようとしてくれた。エーメリは賢い男だった」ニコラスはそっと囁きました。
 アーダはこくんとうなずいて、涙を流しながらほほ笑みました。
「お父さんは、逝ってしまう前に私にもそう言ってくれたわ。お父さんもニコラスも賢い人よ。私はあなたからたくさん学んだもの」
「わしから?」
「そうよ、あなたから。惜しみなく与える喜びの意味を」
 ニコラスの両頬を涙がつーっと伝いました。
「そろそろ行くとするか」ニコラスは慌ただしく言いました。
「ちょっと待って」アーダは、夫のミッコの腕から離れて、ニコラスに近づいて抱きしめました。
「ニコラス、そろそろ自分のことを考えなきゃ」
「どういうことかい?」
「言ったとおりよ。ほかの人のことだけ考えてばかりいられないってこと。いずれは終わりが来るんだから。わかる?」アーダは真顔でニコラスの目を見つめながら小さく言いました。
 ニコラスは言葉に詰まり、小さくうなずくのがやっとでした。しかし、アーダが何を言おうとしているのかもちろんわかっていました。ニコラスは踵を返し、杖を頼りに墓地を後にしました。
(・・・)
「せめてもうひとクリスマス。これで最後の」ニコラスはそっと言いました。

文/訳 末延弘子 マルコ・レイノ著『クリスマス物語』(2007)より


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