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Helmi    原書名:  Helmi
 (ヘルミ)
 作者名:  Hannu Makela, 1943~
 ハンヌ・マケラ
 出版社 / 年:  TAMMI / 2007
 ページ数:  123
 ISBN:  9789513138547
 分類:  児童書
 備考:  

【要約】

もうすぐ小学二年生になるハンナは、おかあさんと二人で暮らしています。おかあさんはいつもパソコンに向かって、フィンランド語に訳す仕事をしています。おとうさんはいつもハガキをくれるけど、帰ってこなくなりました。夏になると、実家でいつも遊んでくれていたおばあちゃんはもういません。仕事をしているおかあさんの表情は暗く、悩んでいるようすです。

ひとりぽっちのハンナの心にずっと寄り添ってくれたのは、小さな白いウエスト・ハイランド・ホワイトテリア犬のぬいぐるみのヘルミでした。犬好きだけどアレルギーで飼えないハンナのために、パリの古市でエルヤス叔父さんが買ってきてくれたのです。

ハンナはどこに行くにもヘルミを連れて行きました。おかあさんが手術ために入院することになって、おとうさんと暮らすことになったときも、ヘルミを連れて寂しい心を打ち明けました。おかあさんに言えないこと、不安に思っていること、なんでもヘルミに話していたら、ヘルミがハンナに話しかけるようになりました。おかあさんの病気の再発の心配も、おとうさんに新しい生活が始まって自分から離れていく不安も、ヘルミは強く優しく打ち消して、こんなふうに笑い飛ばしました。

「まだ知らないってことがいいのよ!つまり希望があるってことだもん!」(『ヘルミ』より)

おかあさんの退院、おかあさんの笑顔、いっしょにいられるこの瞬間の幸せ、これからきっと好転するなにか、これから起こる良いことへの期待とともに、ハンナから不安が消えてゆきます。ハンナの心の充足とともに、ヘルミはもう話しかけてこなくなるのでした。

【抜粋訳: p.20】

ハンナはあくびをしながら、ブラインド越しにもれてくる街灯の明かりを見ていました。明かりは天井をたてや横に走っています。ふと牢屋が頭をよぎりました。まだ眠れそうにありません。ハンナはヘルミに目をやりました。ヘルミはハンナの視線を感じたけれど、なんでもないように、まくらに頭をもたげておとなしく寝ています。やる気のない抱っこぬいぐるみみたいに、そこに。

おもちゃはおもちゃにすぎません。犬やネコや馬や人間みたいに生きていません。それはそうなのです。そういうおもちゃなら、ハンナはたくさん持っています。そういうのは小さいときにもらったものばかりで、いまではもう遊ぶこともなくなりました。とにかく、そういうのがおもちゃです。でも、ヘルミはちがいました。エルヤス叔父さんが家に連れてきて、包みをあけたそのときから、ヘルミは生きはじめました。

文/訳 末延弘子 ハンヌ・マケラ著『ヘルミ』(2007)より


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