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Kulkuri varpunen    原書名:  Kulkuri varpunen
 (旅するスズメ)
 作者名:  Risto Rasa, 1954~
 リスト・ラサ
 出版社 / 年:  OTAVA / 1973
 ページ数:  79
 ISBN:  9511003119
 分類:  詩集
 備考:  

【要約】

生きとし生けるものたちに目を落として観察する。すると、小さなものから発露する輝きや美しさを前に、人はじぶんを省みます。小さきものの教えは大きく、そして、強く胸を打ちます。ささやかな生が、詩人の言葉で呼び出された一冊。

【抜粋訳:p. 7, 12, 19, 23, 24, 40, 42, 49, 50, 65】

p.7

一夜一夜
森が薄らぐ
茎からぽとり
アリはぐるり
もぎたてのコケモモを
アリ塚の電灯に

p.12

灯りを消す
月は夜の丸いランプ
夜にむかって澄みわたる

p.19

芝は雪の綿毛に覆われ
空は帳が降りて 蒼い
星は彼方で 明滅する


毎晩 零度を下回る
水晶のように ぴいんと張りつめた零下
庭を歩けば
零下は草のなかで砕け散る

p.23

枯葉がはらはら落ちてゆく 雪がはらりと降ってくる
過去の夏を悲しまないで
夏は未来にあるんです

p.24

静かに月が轍を駈ける 河畔の木々は
ぴくりともしない 橋の両端にカンテラが灯る どこにも
生きた光がない 車は駆け足で過ぎてゆく
どこにも生きた音がない
月の運転手さん、月の道をわたって ぼくのところに来てください

p.40

白樺の 見あげるような梢から
赤い野球帽が
ちらりとのぞく
クマゲラさん

p.42


肌は 太陽の匂いがする
まるで 小さな子どもの髪のよう

p. 49

くたびれた木
キツツキが幹をよじ登りながら
ムシのメニューを読んでいる

p.50

桟橋はタールの匂い
日がな一日 海をながめる
ぼくは フヌケのナマケモノ
海から船が立ち去ってゆく
そこだとフェンスがいちばん低いんだ

p.65

凪いだ水の鏡に映る
砕け散ったぼくの鏡像

文/訳 末延弘子 リスト・ラサ著『旅するスズメ』(1973)より


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