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Surujenkerääjä    原書名:  Surujenkerääjä
 (悲しみを集めるひと)
 作者名:  Katja Kettu, 1978~
 カティヤ・ケットゥ
 出版社 / 年:  WSOY / 2005
 ページ数:  256
 ISBN:  9510307203
 分類:  小説
 備考:

【要約】

主人公の私は、カウンセラーになった従兄弟のもとへ通いながら、じぶんを探しに幼少時代の記憶へ遡ります。女系家族に育った私は理想の男性像に恵まれませんでした。共産主義に憧れを抱いた曾祖父に悩まされた曾祖母、博打好きで女遊びだった祖父に泣かされた祖母、浮気性の父親に愛想をつかした母。私の悲運は家系にあると思い、私は私であるということを自覚するため、自らの主体性を確立するため、私はじぶんの家系の歴史を紐解きます。父親から受けたサウナ小屋での性的暴力、犬の死、女系家族の悲劇、焼失した家、従兄弟の精神分裂病、伯母の自殺、膀胱炎と膣炎に苦しんだ私、自由奔放な恋人ヤンに惹かれる私、アルコールに溺れ、自殺未遂を図り、自己破壊の道を辿っている現在の私。掌から零れ落ちんばかりの悲しみを、石にたとえてひとつひとつ集めます。悲しみと苦しみに向き合いながら、自己救済へと転向してゆく物語。アニメーションの制作などを手がけるケットゥの処女小説。

【抜粋訳: pp.208-209】

わたしのなかには、ユングの教えが少々、フロイトのペニス羨望がどっさり、それからシュタイナーの自由への教育がある。(・・・)これらが不条理な暴力と先天的な不均衡に混ぜあわされてスープになった。そのなかに自我がある。まるで、ビーフスープに浮いている油脂のようにプカプカ浮いている。自我は逃げてばかりでつかまらない。想像上のスプーンからすうっと逃げて、さらに細分化する。スープ皿を傾けても無理だ。音を立ててずずっと平らげても、それはそれで後味が悪い。心の準備をしておかないと、なにか醜いものがぴょんと飛び出してくるかもしれないし、飲み干した皿の底に沈んだ髪の毛が姿を現すかもしれない。そういうのは避けなくてはならない。だからわたしには石がある。悲しみがプカプカ浮かないように、ぎゅっと握っているのだ。

文/訳 末延弘子 カティヤ・ケットゥ著『悲しみを集めるひと』(2005)より


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