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Velmuja ja vintiöitä    原書名:  Velmuja ja vintiöitä
 (レウフ坂小学校 -ずるいがしこい子といたずらっ子-)
 作者名:  Tuula Kallioniemi, 1951~
 トゥーラ・カッリオニエミ
 出版社 / 年:  OTAVA / 2001
 ページ数:  96
 ISBN:  9511198157
 分類:  児童小説
 備考:  Konsta, eka A

【要約】

小さな村の小さなレウフ坂小学校は、担任の先生も一人、保健室の先生も一人、給食のおばさんも一人、生徒も1年生から6年生まで一クラス。けれど、レウフ坂小学校は小さいながらも、賑やかで元気な子どもたちでいっぱいです。

美化週間や親切週間など、盛りだくさんのアイデアで生徒を飽きさせないアーペリ・カキ先生は、十人十色の生徒たちを抱えて息つく暇もありません。目立ちたがり屋でガキ大将のカイク。そんなカイクにいつも手柄を持っていかれる控えめなトゥルポ=トゥーパは、親切週間の優勝トロフィーをもらうことができるのでしょうか。あるいは、双子の姉妹シプリとトゥプリに恋したキッパリが取った行動とは?ロシタ、ティフル、リューニの仲良し三人娘の友情の行方や、お互いにテスト時間にカンニングし合ったカイクとヴァタネンのテスト結果も気になるところです。美化週間中、札束で膨らんだ財布を発見したオトは、きちんと持ち主に返したのでしょうか?

子どもながらに直面する問題はけっして小さくなく、心を砕いて考えるべきものです。これは果たして間違っているのか、正しい判断なのか。カッリオニエミの溌剌なユーモアが重たい課題を軽減し、子どもに考えさせる余裕と自由を与えてくれます。

イラストは、ルドルフ・コイヴ賞を受賞したアイノ・ハヴカイネンとサミ・トイヴォネンが担当しています。動画的な配色と明確な太い輪郭線は、好奇心旺盛なキャラクターや物語のユーモアをさらに引き立てています。「ずるがしこい子といたずらっ子」は、「レウフ坂小学校」シリーズ(1997~)の第5作目です。

【抜粋訳: pp.62-67】

恋をしている人は、突然の腹痛を訴える表情をしているのでわかります。恋をしている人は、一日に3回シャワーを浴びます。以前は母親に言われて一週間に一回しか入らなかったんですけどね。恋をしている人は、自分から進んで歯を磨きます。恋をしている人は、ニンニクの効いた大好物を絶対に口にしません。恋をしている人は、ジェルでヘアスタイルをばっちりきめて、分け目をつけます。恋をしている人は、父親のオーデコロンと髭剃りを借ります。(もちろん、恋をしている人が女の子ではない場合ですけど。恋をしている女の子の特徴は男の子とはまったく違いますから。)朝、登校する前に、シャツを5枚は試着して、ブリーフやトランクスといった下着も含めてズボンをいろいろ履き直します。どっちが下着かわからなくなるときもありますけどね。恋をしている人は、ぷっつりと無口になったり、変なことを言い始めたりします。お昼からショッピングに行かないとデートに誘うような手紙を書いたり、メールを送ったり、ランドセルを家に忘れたり。チャンスがあったら気になる子にあげようと思っているお菓子をポケットにこっそり入れています。ただ、そんなチャンスが訪れても、ささっと学校の隅に逃げ隠れてしまって、サルミアックの黒いグミを一度に口に含んでしまうんです。ですから、グミで口がひっついて開かなくなって、「メールはあなたがくれたの?」と、好きな女の子が聞いているのに答えられないんです。下校したあとは、恥ずかしさのあまり部屋から一歩も出られなくなって閉じこもってしまいます。
キッパリは間違いなく恋をしています。
「キッパリ!電話だよ!どっかの女の子から!」と、弟のアーロがキッパリの部屋越しに叫んでいます。アーロはドアを開けることができません。だって、キッパリがドアの前にアームチェアやリビングチェアやダイニングチェアやフットライトを積み重ねているんですから。
「オレは家にいないよ!」と、布団をかぶったままキッパリが大声で答えると、アーロが受話器に向かってキーンとした声で言いました。
「家にいないって!」
それを聞いたキッパリは、「バカ!」と叫ぶと、バリケードを崩して汗だくの手でアーロからコードレス電話をがっとひったくりました。
「それはどうも」と、答えたシプリの声は傷ついた様子です。それとも、トゥプリの声だったのでしょうか。キッパリは自信がありませんでした。それくらい、双子のシプリとトゥプリの声はそっくりなのです。双子に恋することほど怖いものはありません。
「いや、バカはアーロのことだよ」と、キッパリは言葉に詰まりながら言いました。
「ああ、あなたのかわいい弟ね?バカなんて、そんなことないわ。ね、ショッピングに付き合ってくれない?」と、トゥプリが言いました。それとも、シプリ?
"うわっ、どうしよう!どうしたらいいんだろう?"と、キッパリは思いましたが、輪ゴムが天井にポーンと弾き跳んだような口調で落ち着きを払ってこう返事しました。
「いいよ」
受話器を置くと、お腹を抱えながらトイレへ駆け込みました。
部屋に戻ると、気ぜわしそうにあっちに行ったりこっちに行ったりしています。不審そうに見つめるアーロに正面衝突するまで、キッパリはジタバタしていました。
「どうしたの?」
そう聞くアーロに、キッパリはもう内緒にしておくことはできませんでした。
「デートするんだ」
「はっ?」
「デートだよ!」
「はっ?」
デート!
「はっ?」
キッパリはアーロの頭をこつんと軽く叩くと、イライラした様子で言葉に詰まりながらしゃべりだしました。
「ショッピングセンターでシプリとデートするんだ。というか、トゥプリかな」
アーロはおかしくてたまりません。兄が女の子とデートするんですから。
「バカみたい」と、アーロがつっけんどんに言い放ちました。
「おまえも、シプリとトゥプリに会ったことがあるだろ」
キッパリはムカムカしています。
「アレだね」と、アーロが言いました。
「アレってなんだよ」と、キッパリのイライラはますます増すばかりです。
「ほら、アレだよ、お兄ちゃん。つまり、お兄ちゃんは二人と一緒に付き合うことはできないってこと。ぼくはできるけどね。だって別に恋してないから。二人同時に恋はできないよ!」
アーロは年の割にはませています。わずか5歳ながら本も読めるんです。
「重婚したら、捕まっちゃうよ!」
「はっ?」
「重婚・・・」
そういうアーロの頭をこつんと軽く叩くと、キッパリはこう言い返しました。
「バカ!だれが結婚するっていうんだよ」
「お兄ちゃんだよ。一人にきめないと面倒なことになるよ」
「はあ」と、答えたキッパリの目はおどおどして落ち着きがありません。
「わかったよ。ショッピングセンターで待っているほうにするよ。双子なんだから、そんなに違うってことはないだろ・・・」
「もし二人ともいたら?そうなると、困ったことになるね」
どうやら、アーロは兄を困らせたいようです。
「おまえも来るんだ」と、キッパリが思いつきました。
「問題ないよ。てゆうか・・・10マルッカでやってもいいよ」
キッパリは顔をゆがめながら、10マルッカを取り出すとアーロに渡しました。
「もし、二人ともそこにいたら、片方を別の場所に連れて行ってくれよ」
「問題ないよ。てゆうか・・・10マルッカくれるならやってもいいよ」
「バカ!オレは破産しちゃうよ」
「女性と付き合うと簡単に破産するよ」と、アーロ。
「5マルッカ」と、キッパリが値切りました。
「いいよ」と、アーロは条件を飲みました。

文/訳 末延弘子 トゥーラ・カッリオニエミ著『ずるがしこい子といたずらっ子』(2001)より


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