【抜粋訳: p.13-15】
「なあ、ヘンニネン」
ミータリアンはそう声をかけると席についた。できるだけ存在感をうすっぺらくしようと必死だ。
ミータリアンと呼ばれている理由は、ミートパイやらピザやら白身魚のフライの衣やら、とにかく脂っこいものが好きだからだ。こちらが圧倒されるくらいの健啖家なのに、ちっとも太らない。
(・・・)
ヘンニネンはヘンニネン。なぜなら名字がヘンニネンだからだ。
(・・・)
三人はなにも言わずにじっと座っている。微妙なラッシュアワーも一段落しはじめ、商品がぞくぞくと通り過ぎてゆく。アイスクリーム、ビール、文房具、荷台いっぱいの汚れた古着。角を曲がったところにある酒屋も店を開けた。強くなる陽射しのなかで濃密になってゆく空気。そこから最初にびんびん伝ってくるのは、大地を叩きながらぶつかり合う豪快な酒瓶の音。
「さあ」と、元帥が口を開いてみる。
「さあって、なんだよ」と、ミータリアン。
「さあってさあだよ。おれはしらねぇ」
「さあ、さあ」と、ヘンニネンは、頭からストッキングをかぶったような、父親のような表情をふくれっつらに浮かべると、フンフンと言いはじめた。
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