【あらすじ】
ぼくが住んでいるアパートに大きな帽子をかぶった女の子が引っ越してきた。名前はトゥーリという。大きな帽子も明るいトゥーリも気になって、友だちになった。大きな帽子はアパートの資源ゴミ置き場で拾ったらしい。タグにはスペイン語で「秘密」と書いてある。
トゥーリはいろんな話を知っていた。ふわふわと宙に浮く女の子の話、スーツケースの中で眠りこけてパリまで旅した男の子の話。一人っ子のトゥーリは花や木と話ができて、おなじように犬や鳥と話ができる女の子の話もしてくれた。人間はもともと動物や植物と通じあえるはずなのに、忙しさのあまり立ちどまって聞くことを忘れてしまったのだとトゥーリは言った。
ふしぎでならないのは、トゥーリが大きな帽子を相手にそっとかぶせると、みんなが心を打ち明けるように語り始めることだった。不動産の仲介をしているサミは、子どものころに隣の敷地に建ったビルのせいで、家を立ち退くことになった。みんなにはそんな思いはしてほしくないと仲介業者になったらしい。でも、仕事に一所懸命すぎて家族を顧みなかったことに気づくと、サミは慌てて家に帰った。
トゥーリのエーヴァおばあちゃんは働き者で、なまけものが嫌いだと言った。部屋の掃除をするように言われたトゥーリは、ナマケモノの話をした後、エーヴァおばあちゃんに帽子をかぶせた。エーヴァおばあちゃんは九人兄弟の長女で、家族の食事を作ったり、兄弟の世話をしたり、人一倍疲れて、人一倍よく働いた。とくに弟のユッシには手を焼いていて、ある日、エーヴァおばあちゃんが疲れて居眠りをしていたら、ユッシがいなくなってしまった。どこを探してもいなくて途方に暮れていると、隣家のトラクターの荷台から聞き覚えのある声がした。ユッシは荷台の干し草の中にいた。いつもエーヴァおばあちゃんに監視されてなにもできなくてつまらないから、寝ている隙に家を出たらしかった。話し終えたエーヴァおばあちゃんは、部屋の掃除の話はやめて、クレープを焼いてくれた。
そして、トゥーリはぼくにも帽子をかぶせた。ぼくはいじめられっ子だった。ぼくのおじいちゃんとおばあちゃんはチリ人で、お父さんはフィンランド人のお母さんと結婚したけれど、ぼくの髪も肌も目もみんなとはちがう。お父さんはフィンランドで仕事をもらえなくてチリに帰ってぼくたちのために働いてくれている。ゆくゆくは、お父さんはぼくたちをチリに呼んで一緒に暮らしたいと言っていた。じつは、トゥーリがゴミ捨て場で見つけた大きな帽子は、ぼくが捨てたものだった。もともとおじいちゃんの帽子で、お父さんがチリに旅立つ前にぼくにくれた。でも、いじめられたことや、いつまた会えるかわからないお父さんとの別れを思うのが辛くて、捨ててしまった。トゥーリのおかげで、今まで誰にも話せなかったことが話せた。
トゥーリから帽子を返すと言われたけれど、ぼくは受け取らなかった。トゥーリのほうが帽子の使い方をちゃんと知っていると思ったんだ。
著者のアンナ=マリ・カスキネンはフィンランドの作家であり詩人であり作詞家です。小さな子ども向けの児童誌「こどものくに」の編集長でもあります。トゥーリと語り手「ぼく」の物語『トゥーリの帽子と九つの物語』は、フィンランド児童作家団体より贈られる由緒ある児童文学賞、アルヴィッド・リュデッケン賞を2009年に受賞しました。
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