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Jänis ja Vanki saavat kännykän    原書名:  Jänis ja Vanki saavat kännykän
 (うさぎヤニスとあらいぐまヴァンキのおはなし 
 森にケータイがやってきた)
 作者名:  Jyrki Kiiskinen, 1963~
 ユルキ・キースキネン
 出版社 / 年:  TAMMI / 2009
 ページ数:  142
 ISBN:  9789513150075
 分類:  児童書
 備考:  Jänis ja Vanki koulun penkillä

【要約】

 ある日、うさぎのヤニスは、しきりになにかに話しかけているサルを森で見かけました。サルは、きらきら光って音を立てる小さいものを手にしています。それは携帯電話でした。着信音が鳴り響き、森はめっきり騒がしくなりました。新しいものに目がないヤニスはケータイに浮かれ、かつての静かな森を思うあらいぐまのヴァンキはケータイ現象にうんざりします。フクロウも、ケータイに振り回されるサルやオオカミやブタやネズミを見て、森のこれからが心配でたまりません。

 森のみんなは、ケータイサンタと名乗る男から携帯電話をもらいました。ヤニスも、自分のケータイをついに手に入れ、電話のかけ方からカメラの使い方、着信音の変え方、画像の保存の仕方までサルに教わって、ケータイ漬けの毎日を送るようになります。あまりにケータイに夢中になりすぎて、ヤニスは熱を出して寝こみますが、熱が下がると凝りもせずケータイに没頭します。

 ヤニスをはじめ、サルやオオカミやブタやネズミはケータイを使いつづけ、料金はどんどん膨らんでいきました。ケータイサンタから請求されてはじめて、森のみんなは支払えないことに気がつきます。ケータイサンタはヤニスを人質にとり、森を差し押さえました。見かねたヴァンキは、延滞料金もまとめて二週間後に支払う約束をし、ヤニスを助ける計画を立てます。

 森のみんなの食糧をいっさいがっさい集めて市場で売り、サルの仲間たちの曲芸で見物料を稼ぎ、携帯電話も売りさばいてお金を工面し、ヤニスをなんとか救うことができました。

 実は、ヴァンキも自分のケータイをもらっていました。それを森の共有の携帯電話にして、これからはみんなでひとつを分かち合い、みんなで支払うことになりました。

【抜粋訳:pp. 17-24】

 いきなりケータイが虹色に光って、ぶるぶるふるえはじめました。
(なんだ、なんだ!?)
「なにしてんの、ヤニス?電話にでなよ!」サルのアピナがせっつきました。
 ウサギのヤニスがにぎりしめたケータイは、まるでお腹をすかせた子ザルが母ザルにすがって泣いているようです。
 子ザルのなきまねをするケータイを、ヤニスはいかがわしく思いました。
(まさか、ここからにょきっと長い手が出てくるとか?電話に出たら、ほっぺたをかみつかれるかも!)
「いい音でしょ」アピナは得意げです。
「ピーピー泣いて、トイレにでも行きたいんじゃないの?」
 アピナはヤニスの返事にがっくりと肩を落としました。
 ケータイはやかましく鳴りつづけ、ヤニスはぶんぶんと頭をふりました。
(耳がこわれる!)
 ヤニスは、うっかりへんなところを押したりしないか、ドキドキしました。
(はやく鳴りやんでよ!そうだ!ヴァンキにわたしちゃえ!)
「ヴァンキの番だぜ。ほら!」
 ヤニスにケータイを押しつけられたヴァンキは、まるで熱いものでもさわるようにおそるおそるにぎりました。音を消すスイッチを探しましたが、こわくてさわれません。ヴァンキはとほうにくれてヤニスとアピナを見ました。ケータイはいっこうに鳴りやみません。ところが、ヤニスはしだいにおもしろくなって、笑いながらアピナに聞きました。
「こんなしゃがれ声、どうやって出すんだ?」
 枝にぶらさがったまま、アピナはなにもいわずに、前後に大きくゆれてヴァンキに近づきました。さっとケータイを取りあげたかと思うと、目にもとまらぬ早さで木のてっぺんにのぼりました。
「もしもし!いまね、木のてっぺんにいるんだ。あれっ、きみも?どこの木?あっ、いたいた!」アピナはきゃっきゃっと笑いました。
 ヤニスとヴァンキはとなりの木にぶらさがっているサルに気がつきました。そのサルもケータイで話しています。
「ジャーンプ!」アピナは電話しながらジャンプして、バサバサと音を立てて二メートル下まで飛びおりました。それでもアピナはなにごともなかったかのようにケータイで話しています。
「ついておいでよ!」
 アピナにいわれて、友だちのサルも地面すれすれまでジャンプしました。ふたりはきゃっきゃっと笑いながらふたたび木にのぼっていきました。
「ぼくにはわかんない」ヴァンキはふたりをじっと見つめながらいいました。
「うん。あんなこと、練習しなきゃできないもんね」
(あっ、ダメだ、オレにはしっぽがなかったんだ。じゃあ、電話しながらジャンプするのはムリか)
「でも、片足でジャンプしながら話せるもんね!逆立ちしながらだって、とんぼ返りしながらだってできる!」
 ヤニスがムキになるそばで、ヴァンキはなにかもの思いにふけっていました。やがて遠くをみながら、ぼそっとつぶやきました。
「えっ?なに?」ヤニスはケータイを耳にあてるまねをして、しゃべりながらジャンプの練習をしました。
「うん、ちょっと思ったんだけどね」
「思ったって、なにを?」ヤニスはあいかわらずなにやらしゃべりながらぴょんぴょんとびはねています。
「いち、に、さん、いち、に、さん!」
「ケータイって、なんのためにあるの?」
「なんで?」
「だって、あのふたりはちゃんと会ってるのに」
 ヤニスはぴたりととまると、どうしようもないといったふうに首をふって思いました。
(わかってないなあ。そんなのきまってるじゃないか。電話しながらってところが、かっこいいんだよ。電話をもってなけりゃ、あんなことだれだってできるんだから!)

文/訳 末延弘子 ユルキ・キースキネン著『森にケータイがやって来た』(2009)より


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