【要約】
ヴァイニオ一家の夏休みは、大事件から始まりました。家族で実家に向かう途中、泥棒に襲われたのです。泥棒は、金品以外の食べ物や着る物を盗み、さらには末っ子のヴィリヤまでかっさらってしまいました。盗んだのは名うての泥棒、ロスボラ・ファミリーでした。
つまらない日常にうんざりしていたヴィリヤは、この予期せぬ事態に戸惑いながらも悪い気はしませんでした。父親のヨウニは口先ばかりで約束を守らず、母親のアンナは姉のヴァナモの肩をもち、ヴァナモはそれにあぐらをかいてお姉ちゃん風を吹かし、嫌気が差していたからです。
ロスボラ・ファミリーのリーダーは、体も声も豪快な涙もろいワイルドです。ワイルドの妻のヒルダは、レーサー顔負けのドライバーで、いざというときにはワイルドよりも頼りがいがあります。家族のなかでもすごみたっぷりの長女ヘレは、盗んだバービー人形をロック風にチューンアップし、一方、弟のカッレはいつかは学校に行きたいと願う紳士的で大人しい泥棒です。そして、ワイルドを心から慕う金歯のゴールドは、泥棒を極めようと泥棒ツアーに精を出していました。
ロスボラ・ファミリーの目当ては食べ物で、とくにお菓子には目がありません。ファミリーにとってお金は価値がなく、箸にも棒にもかからないつまらないもので、「ねずみのおなら」と呼んでいました。身代金よりもお菓子に躍起になり、豪快で会話の絶えない食事スタイルのファミリーに、ヴィリヤは居心地の良さを感じていました。
あるとき、ロスボラ・ファミリーをかくまっているワイルドの姉のカイヤから、ファミリーの過去を聞かされます。ワイルドは泥棒になる前、自動車工場で働いていました。ヘレが五歳、カッレが二歳のときでした。ゴールドは、ワイルドの仕事仲間であり親友でもありました。同じマンションに住んでいて、よくファミリーと夕飯をとっていました。ところが、クリスマスの頃、自動車の生産を海外に移すことになり、工場の閉鎖とともに退職か再就職を迫られたのです。ワイルドにとって、最高の車を作ることが生きがいだったため、そのままファミリーは家を出て、ゴールドはワイルドを追うように連れ立ちました。そして半年後、ファミリーは泥棒となって姿を現したのでした。
泥棒たちの全国夏季大会での一騒動をきっかけに、ヴィリヤはロスボラ・ファミリーに本当の意味で幸せになってもらいたいと願い、行動をおこします。
不本意ながらもさらわれて家を出ることになったヴィリヤは、泥棒との出会いと冒険を経て、新しい自分を発見して家に帰ります。作者のシリ・コルは、ヘルシンキ大学で演劇学を修め、劇作家、演出家、演劇の講師として活躍しています。同書は、出版元のオタヴァ社とキノ・プロダクション主催による、2009年度子どもの本映画脚本コンテストで優勝し、映画化への切符を手にしました。映画は2011年に公開予定です。また本書は、功績をあげた児童書に贈られる2010年度フィンランディア・ジュニア賞を受賞しました。
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