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Me Rosvolat    原書名:  Me Rosvolat
 (泥棒ロスボラ)
 作者名:  Siri Kolu, 1972~
 シリ・コル
 出版社 / 年:  Otava / 2010
 ページ数:  222
 ISBN:  9789511243939
 分類:  児童小説
 備考:  

【要約】

ヴァイニオ一家の夏休みは、大事件から始まりました。家族で実家に向かう途中、泥棒に襲われたのです。泥棒は、金品以外の食べ物や着る物を盗み、さらには末っ子のヴィリヤまでかっさらってしまいました。盗んだのは名うての泥棒、ロスボラ・ファミリーでした。

つまらない日常にうんざりしていたヴィリヤは、この予期せぬ事態に戸惑いながらも悪い気はしませんでした。父親のヨウニは口先ばかりで約束を守らず、母親のアンナは姉のヴァナモの肩をもち、ヴァナモはそれにあぐらをかいてお姉ちゃん風を吹かし、嫌気が差していたからです。

ロスボラ・ファミリーのリーダーは、体も声も豪快な涙もろいワイルドです。ワイルドの妻のヒルダは、レーサー顔負けのドライバーで、いざというときにはワイルドよりも頼りがいがあります。家族のなかでもすごみたっぷりの長女ヘレは、盗んだバービー人形をロック風にチューンアップし、一方、弟のカッレはいつかは学校に行きたいと願う紳士的で大人しい泥棒です。そして、ワイルドを心から慕う金歯のゴールドは、泥棒を極めようと泥棒ツアーに精を出していました。

ロスボラ・ファミリーの目当ては食べ物で、とくにお菓子には目がありません。ファミリーにとってお金は価値がなく、箸にも棒にもかからないつまらないもので、「ねずみのおなら」と呼んでいました。身代金よりもお菓子に躍起になり、豪快で会話の絶えない食事スタイルのファミリーに、ヴィリヤは居心地の良さを感じていました。

あるとき、ロスボラ・ファミリーをかくまっているワイルドの姉のカイヤから、ファミリーの過去を聞かされます。ワイルドは泥棒になる前、自動車工場で働いていました。ヘレが五歳、カッレが二歳のときでした。ゴールドは、ワイルドの仕事仲間であり親友でもありました。同じマンションに住んでいて、よくファミリーと夕飯をとっていました。ところが、クリスマスの頃、自動車の生産を海外に移すことになり、工場の閉鎖とともに退職か再就職を迫られたのです。ワイルドにとって、最高の車を作ることが生きがいだったため、そのままファミリーは家を出て、ゴールドはワイルドを追うように連れ立ちました。そして半年後、ファミリーは泥棒となって姿を現したのでした。

泥棒たちの全国夏季大会での一騒動をきっかけに、ヴィリヤはロスボラ・ファミリーに本当の意味で幸せになってもらいたいと願い、行動をおこします。

不本意ながらもさらわれて家を出ることになったヴィリヤは、泥棒との出会いと冒険を経て、新しい自分を発見して家に帰ります。作者のシリ・コルは、ヘルシンキ大学で演劇学を修め、劇作家、演出家、演劇の講師として活躍しています。同書は、出版元のオタヴァ社とキノ・プロダクション主催による、2009年度子どもの本映画脚本コンテストで優勝し、映画化への切符を手にしました。映画は2011年に公開予定です。また本書は、功績をあげた児童書に贈られる2010年度フィンランディア・ジュニア賞を受賞しました。

【抜粋訳:pp. 9-20】

夏やすみがはじまってすぐ、わたしはさらわれた。六月の二週めだった。でも、盗んでくれてよかったわ。どっちみち、つまらない夏になりそうだったから。サイクリングの日は、雨がぱらぱら降ってきて出かけられなかったし、キャンプの日は、パパに急な仕事が入って中止になった。みんなでなにかするのはいいもんだ、なんて、わたしたちの意見も聞かずにパパはさっさと計画をたてるけれど、どれもかなったためしがない。だから、どんな約束も信じない。
事件のあった日は、かんかん照りの暑い日だった。買ったばかりの車に家族四人がすし詰めになって、おばあちゃんの家に行くところだった。おねえちゃんのヴァナモもわたしも行きたくなくて、車のなかでお菓子のとりあいでケンカになった。とりあいになるのは、車のかたちの黒いグミ。わたしだってほしいのに、おねえちゃんにいつもひとりじめされてしまう。それがいつもイヤで、ケンカになる。
「ピザ屋に寄ろうと思ったが、いいかげんにしないと、どっちかにおりてもらうぞ」
 おねえちゃんがわたしにべーっと舌をだして、黒いグミを見せつけた。
「そうよ、二人とも、パパの言うこと聞いてちょうだい」
 ママは車酔いするから助手席に座っている。まっすぐ前を向いたままこうつづけた。
「ヴィリヤ、とっちゃダメよ。お行儀が悪いでしょ」
 怒られるのはいつもわたしで、どんなときも勝つのはおねえちゃんだ。だれも味方してくれない。
「やーい、ドロボウ」
「なによ、ぶりっ子」
 ケンカに夢中になって油断していたそのとき、わたしたちは泥棒にあった。
 それでわたしは泥棒にさらわれてしまった。泥棒といっしょに行動して後からわかったのは、わたしたちの車も双眼鏡で目をつけられていたということだった。曲がり角で待ち伏せして、いっきに襲いかかる。テレスコープ軸に旗をさして、天井の換気口からはためかし、加速する。運転するのは、ヒルダ。ビキニやノースリーブ姿で容赦なく巧みにハンドルをきって、ブレーキはかけない。
(すごいわ)
 ほかのみんなは車のなかで待機している。リーダーのワイルドは取っ手にぶら下がり、立派な三つ編みをなびかせている。隣に座っているゴールドはもう一方の取っ手をつかみ、すごみの練習をしている。
「ぼくもやりたい。もう大きいもん。ほら、ナイフもといだよ」
 弟の九歳のカッレがいうと、ヒルダが前を見すえたままこうつづけた。
「あら、ペティナイフはカッレが持っていたのね」
「でもあんた、車からおりても、手を上げろっていえないでしょ。どうせ泣きはじめるわよ」姉のヘレがいった。
(こんなスピードのなか、よくペディキュアがつけられるわ。しかも、ぜんぶ色ちがい)
 ヘレは十二歳とはいえ、泥棒にいちばんむいている。ファミリーのなかでもいちばんキケン。キケンすぎて、なにが起こるかわからないから、ワイルドは泥棒ツアーにヘレを連れていかない。
 ヘレは、後ろの席でつま先をピンとあげ、車がぐらぐら揺れるのをものともしない。
「そういうのは、リーダーにまかせればいいさあ。そのときがくりゃ、お声がかかるってもんだ」ゴールドが金歯を見せながら、カッレににやりと笑った。
(金歯のトラが笑ったみたい)
「わかったよ。そのときって、パパの定年?」
 ワイルドは取っ手にぶら下がったまま、ずいっとカッレに顔をよせた。
「いいか、カッレ。オレは、ぜったいに泥棒をやめねえぞ。ほら、いいなおせ」
 カッレはびくっとしながらも、笑いをこらえた。
「わかったって。パパに定年はありません。ぜったいに」
「そうさ。オレはいつだってバリバリの現役だ!」

 ヒルダがわたしたちのBMWをとらえると、脇道にそれて、メンバーに合図を送ってカウントした。カウントはかかせない。それでみんなは身がまえる。
「パーキング、よし。コンタクト、よし。五、四、三、二、レバー、ゴー!」
「パーキング」でブレーキを踏んで速度を落とすと、車体がぐらっと揺れて車が止まる。「コンタクト」でフロントドアがバンと開き、「カウント」でワイルドとゴールドがドアに手をかけ、ねらいをつけた車めがけて姿勢をかがめる。そして、「ゴー!」という合図とともに二人がまっすぐ駆けだした。
「証拠を残すんじゃないよ!」ヘレがそくざに声をかけた。
 あっという間のできごとだった。おねえちゃんはどっきりかと思ったらしく、ワイルドがおねえちゃんではなくわたしをかっさらうと、がっかりしたようにこういった。
「ちょっと、ヴィリヤよりあたしのほうがうんといいわよ!」
 つかまりそうになった瞬間、わたしはかろうじてピンクのノートをつかんだ。肌身離さずもち歩いているノートだ。
 あっという間の出来事だった。パパは車が傷ついていないかピリピリしていた。ボーナスがムダになるかもしれないと思っていたらしい。ロスボラ・ファミリーの車が現場から走りさって、ようやくみんなはわたしがいないことに気がついた。
「ひゃっほー!」ワイルドが戦利品をもって車にほくほく顔で乗りこんだ。
 わたしは車の揺れに気持ちが悪くなった。
(テーマパークのアトラクションみたいなのって、キライなのよね)
「とっとと入って!ドアは閉める!ふかすわよ!」ヒルダが二回クラクションを鳴らして、アクセルを踏んだ。
 車はブオンと爆音を立てながら走りさる。車が動きだして、わたしは自分がさらわれたことに気がついた。
(どこに連れていかれるんだろう)
「黒い車に札つき泥棒!グミのセンスがいいやつもいるんだなあ」ゴールドがグミの入った菓子袋を後ろになげた。
「で、こっちは?」ヘレが目をむいてわたしを見た。

文/訳 末延弘子 シリ・コル著『泥棒ロスボラ』(2010)より


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