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Satu ja pä ärynäpuun Pyrre    原書名:  Satu ja päärynäpuun Pyrre
 (サトゥとピルス)
 作者名:  Anna Gullichsen
 アンナ・グリクセン
 出版社 / 年:  TAMMI / 2008
 ページ数:  26
 ISBN:  9789513141226
 分類:  絵本
 備考:  

【要約】

夏やすみが始まった六月、サトゥはシモネおばあちゃんの家に遊びに行きました。川をのぞむ丘のうえに立つ、青い窓枠のベージュ色のシモネおばあちゃんの家は、リラの茂みに囲まれています。

シモネおばあちゃんはフランス生まれで、庭師のクイスマおじいちゃんと結婚しました。クイスマおじいちゃんはもう亡くなりましたが、庭は草花が四季をとおして咲き誇っています。クイスマおじいちゃんの墓前に植えたパンジーの花を見ると、シモネおばあちゃんとサトゥは、はらはらと涙をこぼしました。

シモネおばあちゃんは、ローズマリーにラベンダーといったフランスのハーブや、ダリアやマリーゴールドやカラシナやヒマワリといった一年草を育て、クイスマおじいちゃんは世界のめずらしい多年生の植物を植えていました。

あるとき、サトゥは風のわたる草原で聞きなれない声を耳にしました。樫の木に登ったら、洋なしの枯れ枝のような小さな男があらわれました。その小さな男は、クイスマおじいちゃんとおなじ緑のソフト帽をかぶっていました。

小さな男は、洋なしの木の枝でピルスと言いました。ルバーブの葉陰に住んでいて、庭木の手入れをしたり、草花を植え替えたり、肥料や水をやったり、雑草をむしったり、手ぎわよく庭の仕事をしました。

シモネおばあちゃんが昼寝をしている間、サトゥはピルスと庭仕事をするようになりました。ピルスの手ほどきで、サトゥはクレマチスやオダマキやサクラソウやヒナゲシを植えたり、イラクサを水につけて肥料をこしらえたり、堆肥をつくったり、カタツムリやユリクビナガハムシは葉っぱを食べる害虫だと教わったりしました。

ある雨あがりの日、ピルスがイラクサの茂みのなかに倒れていました。イラクサの肥料をバラにあげてと言い残して。サトゥはシモネおばあちゃんにピルスのことを話すと、シモネおばあちゃんはピルスを土に埋めてくれました。

八月。実りの季節に、シモネおばあちゃんはニンジンやズッキーニを野菜畑で収穫し、ベリーを摘んで、ハーブを乾燥させました。サトゥは、ピルスとの庭の約束を心にとめて、秋から小学生になりました。

サトゥと洋なしの木のピルスとの夏の庭の物語に、庭の手入れのヒントやワンポイントアドバイスが載っています。ほかに、草花の学名や植物の生態がピルスの言葉で語られ、シモネおばあちゃんのハーブのお話やパイやジャムのレシピもついた、ガーデニング絵本です。

【抜粋訳】

 サトゥは風のわたる草原に立って、ヒナゲシやイトシャジンが揺れる様子を見ていました。夏の風はなんてすてきなんでしょう!
 サトゥがもの思いにふけっていたら、ふいに、聞きなれない声が聞こえてきました。サトゥは樫の木に登って、おかしなハミングにじっと耳をすましました。そこにいたのは、鳥でもバッタでも子ねこでもなく、ちょっと変わった小さな生き物でした。
 その生き物は歌を歌って、枝のうえでバランスをとっています。ピョンピョン飛びはねたり、くるくる回ったり、伸びをしたり、帽子をとって深々とおじぎをしたり。サトゥは夢でも見ているのかと思いました。でも、調子をとりながら手をたたきはじめました。
 生き物はバランスをくずして、よろめいて木から落ちました。サトゥはあわてて駆けつけて、生き物を助けおこしました。
「なんともないさ」サトゥが手を差しだすと、小さな男が言いました。生き物はほんとうに小さな男性のようでした。
「オレみたいな枯れ枝が、高いところでバレエなんてやるもんじゃないね」小さな男が言いました。
 サトゥは、今日はとくべつな日だと思いました。おもしろおかしい小さな男は、クイスマおじいちゃんとまったくおなじ緑のソフト帽をかぶっていました。
「手をかしてあげようか?」サトゥが聞きました。
「いや、もうこりごり!」小さな男は足をひきずりながら丘を下っていきました。サトゥは、そのあとを追いかけましたが、見うしなってしまいました。
 サトゥはベランダにもどると、ちょうどシモネおばあちゃんが昼寝から目を覚ましました。
「なにをしてたの、マ・プティット(わたしのかわいいおちびさん)?」
 サトゥはしばらく考えたあと、こう答えました。
「なんにも」
(・・・)
 ルバーブの葉の陰からハミングが聞こえてきました。
「どこにいるの?でてきて!」サトゥが大きな声で呼びました。
 すると、洋なしの枝のような小さな男が目のまえにあらわれました。小さな男はサトゥの緑のソフト帽を指さしました。サトゥはピンときて、おなじように小さな男の緑のソフト帽を指さしました。
「おんなじ帽子ね」
 サトゥはぐいっとかがんで小さな男をまじまじと見ました。
「名前はなんていうの?」
「ピルス・コンムニス。ラテン語さ。洋なしっていう意味。ピルスでいいよ」
 

文/訳 末延弘子 アンナ・グリクセン著『サトゥとピルス』(2008)より


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