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Nokikätkön ritarit ja Kuuhiisi    原書名:  Nokikätkön ritarit ja Kuuhiisi
 (カエデ騎士団と月の精)
 作者名:  Riikka Jäntti
 リーッカ・ヤンッティ
 出版社 / 年:  WSOY / 2005
 ページ数:  75
 ISBN:  9789510303665
 分類:  児童書
 備考:  

【要約】

元気で愛くるしいリスのノコは、ヒーリヴオリ村の大きなカエデの木の家に住んでいます。カエデの木の家は昔からあって、ノコが住む前にも、たくさんの住人が出入りしていました。家もずいぶん古くなりました。夏も終わりに近づいた八月、ノコは兄のヴィリから台所の天井を塗り替えるように言われます。いっしょに住んでいるおっとりマイペースのトイヴォと、ペンキ塗りのアルバイトにやって来たちょっぴりこわがりなネズミのイーリスと、台所の大掃除からはじめました。

カエデの木の家のいちばんの自慢はレンガ造りのストーブです。冬に火を入れると、家中が暖まります。ただし、ストーブの扉は開けないようにとヴィリから言われているので、掃除もできません。ヴィリはとにかく指図ばかりして、ノコは不満でした。どうしても気になった三人は、ストーブの扉を開けてみることにしました。そこには、ヴィリの書類やヒーリヴオリ村の地図が隠されていて、煙突にはほら穴がありました。ほら穴や地図を見つけたことは三人だけの秘密にしておこうと誓いをたて、ノコたちは秘密結社「カエデ騎士団」を立ち上げます。

騎士団を立ち上げたその日の晩、ヴィリはカエデの木の家にあやしいモグラ連中を呼びました。モグラ連中は、どうやらヒーリヴオリに伝わる宝の王冠を盗もうとたくらんでいるらしく、ヴィリも一枚かんでいました。王冠のありかはドブネズミ大屋敷の見取り図に記されていて、ヴィリは宝の地図を手に入れるために、ヘンクツ者で有名なドブネズミ主人に話をつけにいくことになりました。

村に伝わるヒーリヴオリ伝説とは、昔、ヒーリヴオリを統治していた王さまが、村の平和のために自らの王冠を月の精に捧げたことにはじまります。月の精は、百年に三晩、ヒーリヴオリの湖の水が黒くなる夜に目ざめます。月の精はどんな願いもかなえてくれるのですが、そのためには、自分のたいせつなものをあきらめなくてはなりません。月の精に捧げた王冠が発見されると、村が不幸になると言われています。ドブネズミ主人は、そのことを知っていたので、かたくななまでに見取り図を守りぬいてきたのでした。

王冠のありかを示す地図はカエデのかたちをしていました。つまり、カエデの木の家の下が王冠のありかだったのでした。ノコとトイヴォとイーリスのカエデ騎士団は、盗賊団がカエデの木を切り倒そうとするのを、なんとかして阻止します。ノコがヴィリを説得している間、トイヴォはモグラ盗賊団につかまって納屋に閉じこめられ、イーリスは盗賊団に追われて森で迷ってしまいます。そのとき、イーリスは月の精の声を聞きました。

「おまえが手放したくないものを差しだしなさい。そうすれば、願いをかなえよう」

イーリスは考えたあげく、自分のしっぽを差しだしました。ペンキ塗りのバイト代でリボンを買って、自慢のしっぽにつけたいと思っていたけれど、カエデの木のために月の精にゆずったのです。すると、モグラ盗賊団は姿を消し、さっきまで黒く濁っていたヒーリヴオリの湖もきれいな水色になりました。兄のヴィリも反省したようで、なまいきな態度をあらためることをノコに約束しました。ノコとトイヴォとイーリスのカエデ騎士団には、王冠を守ってくれたお礼としてドブネズミ主人から川船がプレゼントされました。

『カエデ騎士団と月の精』は、挿絵画家として活躍中のリーッカ・ヤンッティ自身の処女作で、現在までに「カエデの木の家のなかまたち」シリーズとして、第二弾『カエデの木の家のなかまたちときけんな足あと(Vaahteratuvan väki ja vaarallinen pero)』、第三弾『カエデの木の家のなかまたちとこわいクモ(Toivo ja hirveä hämähäkki)』が刊行されています。

【抜粋訳:pp. 15-17】

 台所の天井は、夕方までに半分をぬりおえました。ノコとトイヴォとイーリスの三人はひと休みして、レモンケーキを食べていました。
「ついでだから、ストーブも掃除したほうがいいとおもうのよね。そのほうがいっきにかたづくもん」ノコが言いました。
「ぼくもそうおもう」トイヴォがつづけました。
 ノコはぞうきんを手にすると、トイヴォはちりとりを持ってきて、イーリスは灰がとびちってもいいように新聞紙を何枚か扉のまえにしきました。そうして、三人はあらためてストーブのまえに集合しました。
「それじゃあ、みんな、開けるよ。いちにのさん!」ノコはかけごえをかけて、扉を開けました。
 ところが、中にはススと灰があるだけで、とくべつなにも変わったものはありません。ノコは奥までのぞきこんでみました。すると、なにやら平べったい包みがありました。
「あっ、なにかある!」
 ノコが声をあげると、トイヴォとイーリスがわっとのぞきこんできました。
「イーリス、いちばん小さいあなたが取ってきて」
 イーリスは入り口によじのぼって、ささっと奥に入っていきました。せまい場所でもネズミならなんてことはありません。イーリスは煙突にはいのぼって、やがて姿が見えなくなりました。
「イーリス!どこまで行くのよ?ねえ、もどってきて!」
 しばらくして、イーリスはバックしながら煙突をおりてくると、ススだらけになって台所へでてきました。
「はい、これ」イーリスは手にした平べったい包みを差しだしました。
「あたしね、ほら穴を見つけたの!」
 ノコとトイヴォはイーリスをまじまじと見つめました。
「ほら穴?この煙突の中に?どんなほら穴が?」
「まっくらで、わかんなかったけど、壁に小さな扉がついていて、かんたんに開いたわ。ほんとよ、ほんとにあったの」
「すごいや!」トイヴォが言いました。
 イーリスが取ってきた包みの中には、兄のヴィリの書類とヒーリヴオリ村の地図らしきものが入っていました。
「なんかあやしいわね。奥のほうに隠してあるなんて。でも、お兄ちゃんは体が大きいから、そんなに奥まで進めないわ。ということは、お兄ちゃんはほら穴のことは知らないはずよね」
 三人は書類を見てみましたが、おもしろそうなことは書いていません。
「ねえ、ほら穴のことだけど、ぼくさ、カエデの木のうろだとおもうんだ。ほら、この家ってさ、カエデにくっついてたってるから」トイヴォが言いました。
「これは調べるひつようがあるわね。でも、わたしたちだけの秘密にしましょ」
 イーリスは包みをもとの場所にもどして、ノコはレモンケーキをさらに切ってテーブルに出しました。三人はケーキを食べながら、秘密結社を立ち上げることにきめました。
「ぼくは騎士になりたい」トイヴォが言いました。
「どうぞ。みんな騎士になればいいわ。カエデ騎士団ね!」ノコが言いました。

(文/訳 末延弘子 リーッカ・ヤンッティ著『カエデ騎士団と月の精』(2005)より)


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