【要約】
王女が病気になりました。それまで王国では、畑は豊かに実り、森に緑が生い茂り、幸せな光に包まれていました。王女が病に伏せてから、雨はひたすら降り続け、雲が垂れこめました。
王さまは、国中の医者という医者を集めて、熱にうなされる王女をなんとか治そうとしますが、王女はいっこうに目を覚ましませんでした。ある日のこと、よその国から男性が城を訪ねてきました。髭をたくわえ、ぼさぼさ頭にソフト帽をかぶり、小脇に鞄を抱えていました。自分が置いていく贈り物に満足するなら、王女の病気を治すと言うのです。王さまとお妃は、王女に元気になってもらいたくて承知しました。
男性は、薬やピンセットや薬草はいっさい使いませんでした。かわりに、象牙の箱から取りだしたのは赤紫色の羽根でした。その羽根で、王女の額に三回、心臓に三回、背中に三回触れると、男性は姿を消しました。
その日の晩、王女の熱は下がり、元気に目を覚ましました。城では盛大なパーティが開かれ、王女も舞踏を披露しました。王女の回復とともに、凍土はとけ、川は流れ、国に春がやって来ました。
ところが、夜になると、王女はうなされるようになります。一週間後には、王女の背中に翼が生えていました。カーテンがあおられて揺れるくらい、それは大きな翼でした。お妃は王女の変化に泣きふせ、王さまは自分の目を疑いました。
王女に翼がはえたことを恥ずかしく思った王さまとお妃は隠しておくことにしました。王女にマントを着せて翼を隠したり、侍女にココアやリボンや真珠や絵本を王女にあたえて飛んで行かないようしたり、金と銀で鋳造した世界一うつくしい鳥かごに入れたり、王さまとお妃が地上の人間になりなさいと説得したりしました。それでも、王女は飛ぶことを止めませんでした。王女にとって、風は青い絹となり、雲は羽毛の枕となり、飛ぶことは幸せだったのです。
ある日、王女は戻ってきませんでした。王さまはついに、国をあげて王女の捜索に取りかかりました。国中に翼のはえた王女の存在が知れわたることになりましたが、王さまはもう隠しておくのをやめました。お妃も王女が恋しくてたまりませんでした。森で拾った白い羽根を赤紫色に染めて、王女とおなじ翼を縫い上げました。そして、自分の背中につけて、王女の帰りを待ちました。
王さまとお妃が、王女の翼も翼のはえた王女も受け入れたとき、王女が戻ってきました。
カーリナ・ヘラキサは、フィンランドを代表する児童作家です。ユーモアとファンタジーあふれる童話を数多く残したほか、リンドグレンやヤンソンのフィンランド語訳も手がけました。同書は、フィンランディア・ジュニア賞の候補に挙がりました。
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