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FILIという辻に立って

【FILIという辻に立って】

今年、フィンランド文学情報センター( FILI, Suomen kirjallisuuden tiedotuskeskus)は設立30周年を迎えます。1977年に設立されたFILIは、1831年に設立された国立学術文化機関フィンランド文学協会(SKS, Suomalaisen Kirjallisuuden Seura)の下部組織です。FILIは、フィンランド文学の翻訳、印刷、刊行を支援し、海外におけるフィンランド文学を積極的に世界へ発信し続けている類い稀なる機関です。(詳細は、こちらのページでご紹介しています)

 FILI設立30周年を記念して、来年にかけてさまざまなイベントが開催されます。6月に参加した国際児童文学翻訳家招待セミナーは、そのひとつです。スウェーデンより翻訳家であり研究家のヤニーナ・オルロフ女史、そして、ドイツより翻訳家でありフィンランド政府外国人翻訳家賞受賞者ステファン・モスター氏のもとに、アメリカ、フランス、ハンガリー、モロッコ、ポーランド、デンマーク、ロシア、イギリス、リトアニア、そして、日本から、フィンランド児童文学の翻訳家たちが集いました。

 わたしたち翻訳家は、いかにテクストと向き合い、対話し、ふるまうのか。ふたつの国の間で生じる価値観や伝統や文化の差異に立ったとき、わたしたちは、どんなふうに言葉を選び、伝えてゆくのか。宗教や道徳や政治に関わる事柄は、児童書の翻訳にどんなふうに影響するのか。はたして、翻訳することとは、いったいなんなのか。

 児童書に限らず、フィンランド文学全般にわたって、わたしたちは境界を超えて向き合いました。多様な解釈と認識に触れて世界はさらに広がり、貴重な経験をもたらしてくれました。

 国際児童文学翻訳家招待セミナーに続き、先ごろ東京ビッグサイトにて開催された第14回東京国際ブックフェアへの初出展も、大切なイベントのひとつです。フィンランドを代表して、FILIセンター長イリス・シュヴァンク、児童書担当ハンネレ・イュルッカ、当サイトスタッフの五十嵐淳、末延弘子が、児童書ブースに参加いたしました。

 ブースは人びとが行き交う辻に立ち、ムーミンパパを看板に座らせて、毎日、舵をとってもらいました。そのおかげでしょうか、用意していた数百部もの資料は、初日ですっかりなくなってしまいました。出版社の方々を始め、学校や教育関係の方々、そして、家族連れの一般の方々まで、たくさんの方々がフィンランド文学に興味をもってくださり、足を運んでくださいました。行き逢う場所での出会いは忘れがたいものばかりです。FILIを通して、なにかが伝い、なにかが生まれ、発展してゆく兆しを体験した四日間でした。

 フィンランドは、人口が500万余りという小さな国でありながらも、培われた精神的な構造物である文学は、とても豊穣です。その豊かな文学を、こうやって、訳本というかたちで、そして、ブックフェアというかたちで、ご紹介できたことに感謝しています。

 FILIという辻での出会いが道へと通じるよう、心から願っています。


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