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フィンランド文化情報誌「Hiidenkivi」(2006/2)

Hiivenkivi_2006_2

フィンランド文学協会(SKS)、フィンランド郷里団体(Suomen Kotiseutuliitto)内国語研究センター(Kotimaisten kielten tutkimuskeskus)共同発行によるフィンランド文化情報誌「Hiidennkivi」の2006年2号に掲載されている文学関連の情報を簡単にご紹介します。

Iris rukka haastaa Annan ja Runotyön

この記事では、フィンランド語による児童文学の開拓者として知られるアンニ・スヴァン(Anni Swan, 1875-1958)が35年という長きに渡って著した児童文学作品を現代の視点から再評価し、今後この作品がフィンランドの子どもたちに受け継がれてゆくためにはどのような変更を加えたらよいか指摘をしています。アンニ・スヴァンは、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』をはじめヨーロッパの児童文学をフィンランド語に訳して紹介し、また自分の作品にもヨーロッパの児童文学の特徴を取りこみました。それと同時に、トペリウスをはじめとする国内の児童文学の伝統も取り入れた作品を数多く残しました。彼女の作品に特徴的なのは、少女向けの小説のストーリー展開にあります。シンデレラのように突如として貧困から裕福になるようなストーリー展開は、アンニ・スヴァン作品には見受けられません。「運命的な展開」を避け「自己を内観する」ような展開、言い換えると現実に根ざした少女の生き方がスヴァンの作品に特徴的に描かれています。このような内容は、現在の子どもたちにとって過去を知る資料的な意味合いが強く、作品の世界に入り込むことはないようです。今後、スヴァンの作品を含め過去の時代の児童小説は、現在の子どもたちに近い存在として受け入れられ、また受け継がれていくためにも、現代風にアレンジする必要に迫られそうです。

◆ Miten suomalaista kulttuuria viedään?

フィンランド文学情報センター(FILI)の所長イリス・シュヴァンク(Iris Schwank)によると、昨年、フィンランドの文学は163タイトルが31ヶ国語に翻訳されました。2004年が106タイトルであったことを考えれば、かなりの伸びを示しています。FILIは、フィンランド文学の海外での窓口として、海外での文学イベントや翻訳者にたいする助成金(年間約260,000ユーロ)を給付しています。他の北欧諸国と比べると、フィンランド語は翻訳されにくい言語であるため、翻訳文学としてフィンランド文学が紹介されることは稀でした。しかしながら、FILIの活動を通じて、翻訳されるフィンランド文学も年々増加し、他の北欧諸国と肩を並べるようになってきました。今後、さらに多くの国々にフィンランド文学情報が発信されることが期待されます。

◆ Kirjan monikasvoinen tulevaisuus

この記事は、フィンランドのデジタル関連の専門家が書籍の多面的な将来像について話し合った内容を簡単にまとめています。情報を扱う書籍は、その性質上、電子書籍へと次第に移行していき、文学作品も例外なく電子化され、必要な書籍を必要な箇所だけ印刷して購入するような時代がもうすぐ訪れるのではないかと予想しています。しかしながら、書籍にたいする価値は、デジタル時代になろうとも変わらないという見方もあります。また、すべてが電子化していく社会で、文学作品までデジタル化して持ちあるくことにも疑問の声が上がっています。ともあれ、書籍は多面的な媒体となることは確かです。フィンランドは情報社会の先端を行く国でありますから、今後の成りゆきは、同じく情報先進国である日本の参考にもなります。今後の展開にも注目したいところです。

◆ Kirja ja raha

この記事では、フィンランド教育省が1960年以降行ってきた図書館への財政支援が困難になってきている現状を簡単にまとめています。その背景には、EU加盟国として図書館で借りた本にたいする著作権使用料のシステムを、今後フィンランドも構築しなければならないという問題があります。このシステムを構築するとEUからの文化助成金は、図書館で借りた本にたいする著作権使用料に消えてしまい、新たな書籍を購入する財政支援や作者への助成金が滞ってしまいます。人口的に市場が小さいフィンランドにおいては、市場だけを頼りにしていては採算の取れない学術書や情報書籍などはもちろんのこと、一般の文学も出版されないような状況も出てくる恐れがあります。2009年にはフィンランドは「世界の文学指定都市」となることからも、今後、書籍を取り巻くシステムと金銭の流れについて多く議論されることになりそうです。


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