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Viima    原書名:  Viima
 (ヴィーマ)
 作者名:  Seita Parkkola, 1971~
 セイタ・パルッコラ
 出版社 / 年:  WSOY / 2006
 ページ数:  334
 ISBN:  9510317101
 分類:  児童小説
 備考:  

【要約】

「飛びたいなら、怖がっちゃだめだ」

濃い瞳にドレッドヘアー、そして、スケートボードに絶えない家出。この理由で、12歳のヴィーマは、可能性スクールに入学させられた。父親の再婚相手で心理カウンセラーのアヴァントの計らいだ。高い塀で囲まれた水槽のような冷たい建物。そこでは、いじめも競争もなく、すべてがルールに則って"良い子"と子どもの未来がつくられてゆく。入学と同時に、ヴィーマのスケートボードも没収され、前の学校の友人との連絡も取れなくなってしまった。

可能性スクールの生徒には生気がなく、ヴィーマは浮いた存在だった。そこでは、生徒からマスクの型が取られ、地下室のショーケースに保存されていた。型を取られた生徒はみんな、魂を抜かれたような虚ろな目をして、意のままに動かされるマリオネットのようだ。ところが、町の廃屋と化した工場は、別世界だった。スプレー落書き、無造作に放置されたガラクタの山、突風のようにスケートボードを操る少女インティア。工場に足を踏み入れた途端、外の世界の方角や尺度はすっかりその意味をなくし、じぶんがどこに立っているのか、なにが見えているのか、そこではじぶんが中心だった。

可能性スクールに入学して、まもなく、母親が失踪する。そして、規則違反が絶えないヴィーマは学校裁判にかけられ、ルールを守れないものは、ルールの保護を受けることができなくなるという理由で、ペナルティーマークをつけられてしまう。やがて、父親も、ある朝、忽然と姿を消してしまう。

だれも守ってはくれないけれど、じぶんの可能性を取り戻すために闘うことを決心したヴィーマ。彼をインティアはいかに導き、いかに反旗を翻したのか。マスクを取られた生徒は、ほんとうはなにを学校に奪われてしまったのだろう。

じぶんで決めることが、大事なんだ」と、ヴィーマは意を決して、もうひとつの現実に立ち向かう。

【抜粋訳 :pp.322-333】

「いったいここでなにがあったんだ?」
「マスクはぜんぶ、なくなったわ」
クラスメートのピルヤの重々しい返事に、オレは愕然とした。
「ってことはつまり・・・だれも死んでない、ってことだ」
ふうっと息をつくと、インティアの仲間のマウが背後から肩をつかんで、オレを揺さぶった。
「革命だよ、みんな!」マウは真顔で言った。
「血だ!」同じく仲間のラが、ガラスに顔を押しつけながら、声をあげた。
「炎だ!」ラのふたごの兄クーが、続いて叫んだ。
すべてが混乱していた。校庭の向こうにある体育館だけが、夜のように黒くて、大人の姿はどこにもなかった。
「オレらもここで燃えちゃうのか?」ラはオレの手を握ってきた。
オレは首を横に振った。
「ガラスは燃えない。黒くなるだけだ。すごく熱ければ溶けてしまうし、割れるかもしれない。でも、燃えないよ。オレたちにはまだやることがあるんだ」オレはそう言うと、みんなにウィンクした。
学校の事務室に急ぐと、最後の任務を果たした。窓ガラスを割って、金庫から入学手続きの契約書類を掘りだし、窓から放り投げた。契約書は校庭で燃える火に捕えられ、一瞬、激しく燃えたかと思うと、灰へと変わり、喚きたてる生徒たちに降りかかった。
あたりは、校内の非常ベルのつんざく音と近づいてくる消防車のサイレンで満ちていた。
オレは机によじ登ると、手に持っていた契約書で紙ヒコーキを折った。オレ、ヴィーマ・テラスは未来を捨てた。そして、飛び降りようとぐいっと身を乗りだした。マウとピルヤは校庭に飛び降り、クーとラもジャンプした。そんなに高くはなかった。
飛び降りようとしたそのとき、アヴァントの姿が目に入った。砕け散ったガラスの破片に、彼女の姿が映っていた。
「ヴィーマ!」
アヴァントに呼ばれて、オレは振り返った。アヴァントは校長室のドアのところに立っていて、オレを見ていた。
「どこに行くのよ?飛ぼうとしてるの?」
「来るな」
オレはアヴァントから目を逸らさなかった。オレはもうつかまらない、アヴァントみたいなクモのようなヤツにすら。立ち止まるまえに、オレは飛ぶ。それに、オレはもう立ち止まったりしないんだ。
だから、オレはうなずいた。
「それじゃ、オレは行くから」

文/訳 末延弘子 セイタ・パルッコラ著『ヴィーマ』(2006)より


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