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Lehmä jonka kyljessä oli luukku    原書名:  Lehmä jonka kyljessä oli luukku
 (小窓のついたウシ)
 作者名:  Tomi Kontio, 1966~
 トミ・コンティオ
 出版社 / 年:  TEOS / 2006
 ページ数:  29
 ISBN:  9518511004
 分類:  絵本
 備考:  2007年度 ルドルフ・コイヴ賞受賞作
 Keväällä isä sai siivet

【要約】

家出をした、ふたごの姉妹のイヴァンとヴァンヤは、途中、わき腹に小窓のついたウシに出会います。ふたりは、窓の向こう側が気になって仕方がありません。そこで、ふたりは窓の向こうの「いっぷう変わったもの」をのぞかせてもらう代わりに、ふたりのいっぷう変わった話し方を、物々交換することになりました。じつは、イヴァンはVが言えず、一方、ヴァンヤはVをつけないと話せません。ですから、ふたりのほんとうの名前は、ヴィヴァンとアンヤなのです。

小窓を開けると、強烈な悪臭とともにウシの最初の胃袋の世界が開かれました。牛乳パックに、クリームやバターの入った器が、溶鉱炉のように赤々と熱を放っています。タンク車に隠れて縮こまっているのは、十種競技選手ハシッタ・ミルクです。どうやら、酸化中で機嫌が悪く、できあがったカッテージチーズをむしり取っているようです。小窓のついたウシは空も飛べます。ウシ機長の案内で、二人はエストニアまで小旅行しました。

ところが、いっぷう変わった出来事を体験すると、じぶんたちのいっぷう変わった話し方が失われてしまいました。イヴァンの言えなかったVが言えて、ヴァンヤ余計なVが取れてしまったのです。ウシの体内から脱出するために、ふたりが取った行動とは?

【抜粋訳 】

「ヘンなウシに食い戻されるまえに、じぶんたちの言葉を探さなきゃ」イヴァンが小さくささやきました。
イヴァンとヴァンヤはウシの一番目の胃袋をがさごそ探ったり、腸をのぞいてみたり、脾臓の壁をこすってみたりしました。ふたりとも、あせっています。
「わたしの言葉を返してほしい。こんなふつうの言葉、わたしにしっくりこないもん。スラスラものが言えるなんて、きもち悪い」ヴァンヤが不満げにため息をつきました。
「なんだかまぬけな感じ。Vは口のなかでつっかえて、攻撃的ね。あたしはもともとおとなしいのに、Vのせいで、あたしはダイナシよ」イヴァンがいいました。
胃袋の壁がどくっどくっと脈打ちはじめました。牛乳パックはどんどん倒れ、タンク車は眠りから目覚め、慌ててクラクションを鳴らしはじめました。ハシッタ・ミルクは、走り終えた様子です。
「もうすぐ、胃から口に食い戻されるみたいに、あたしたちも外に放りだされるよ」イヴァンが泣きべそをかきました。
「あそこよ、うえにある!そこにわたしたちの言葉がぶら下がってるわ。ウシの胃袋はトランポリンみたいにバネが効いているから、スピード上げて、ジャンプ!」
ふたりはジャンプして言葉をつかむと同時に、ウシの口からぬかるんだ牧草地に転がり出ました。

文/訳 末延弘子 トミ・コンティオ著『小窓のついたウシ』(2006)より


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