【抜粋訳: pp.38-42】
大食い競争
「おい、試合にでかけるぞ!」と、柱の前に立ってお城のおふれを読んでいた一番上の兄が言いました。それは、大食い競争への誘いでした。一番の大食いが王女の婿になり、そして次期国王になるのです。
「ちょっとおかしな競技だね。でも、食べることに関しては、ほかの人に負けないさ」と、二番目の兄が言いました。
そういうわけで、二人はお城に行って試合に出ることに決めました。
「おまえも来いよ、もじゃもじゃ頭!」と、兄たちは一番下の弟に声をかけました。
もじゃもじゃ頭は末っ子です。髪がぼさぼさなのは、あれこれと世界の物事を考えながら指で梳くからです。来る日も来る日も考えてばかりの弟に、一番上の兄はこう言いました。
「おまえはオレたちには勝てないな」
「それはどうかな」と、もじゃもじゃ頭が言いました。
(・・・)
「わたしはおなかに興味があります。おなかはすばらしいのです。食べ物を受け入れて、それを生命に変えるからです。わたしは、一番大きなおなかをもっている人をお婿さんに望みます」と、王女が競技者に向かって高らかに言いました。そして、スタートの合図を宣言しました。
「朝飯前さ」と、一番上の兄が言うと、何本ものソーセージや何枚ものステーキをがつがつほお張って食べはじめました。ワインを5缶空け、デザートに10皿分のパンケーキを頼むと、一番上の兄のおなかはぱんぱんになりました。
二番目の兄は手はじめに軽くサラダを7皿食べつくし、燻製の焼き豚を半分食べたところで、食べすぎで胸がつかえてしまいました。
むしゃむしゃ、もぐもぐ、ずるずる、げっぷが、テーブル席から聞こえてきます。王女はテーブルの間を縫うように歩いて、競技者の様子をうかがっていました。一番下の弟のもじゃもじゃ頭は、テーブルの端っこについて、目の前のりんごをじっと見つめていました。
「あなたのおなかはいかがかしら?」と、王女がもじゃもじゃ頭にたずねました。
「ぼくのおなかはすばらしいですよ。太陽と風と雨雲とトラック一台分の土と、それからほかにもたくさんのものを、あっという間に食べることができるんです」
「それは見せてもらわないと」
すると、もじゃもじゃ頭はりんごを手にとると、優しい眼差しでしばらく見つめたあと、落ち着いてよく噛みながら食べました。
「まあ!太陽とかトラック一台分の土はどうなったの!」
「ぼくは世界をまるごと食べました。庭師が車いっぱいの土を運んで、そこにりんごの木を植えました。その木は太陽から熱をもらい、雨から潤いをもらいました。花は風から結実し、そしてやっと美しいりんごが熟しました。それをぼくはさっき食べたのです」
「君こそ賢い少年だ」と、もじゃもじゃ頭の話を聞いていた王さまが言いました。
「さあ、娘よ、この男をもらいなさい。彼のおなかは世界一すばらしい。空気や大地すべてを摂りこんで、消化するのだから」
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