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Pussikaljaromaani    原書名:  Pussikaljaromaani
 (男3人物語)
 作者名:  Mikko Rimminen, 1975~
 ミッコ・リンミネン
 出版社 / 年:  TEOS / 2004
 ページ数:  330
 ISBN:  9518510199
 分類:  小説
 備考:  2004年度カレヴィ・ヤンッティ賞受賞作
 2004年度フィンランディア賞候補作

【要約】

舞台はヘルシンキのカッリオ地域。なにをするともなく行き当たりばったりの一日を送る、元帥、ミータリアン、ヘンニネンの3人男は、なにかしなければとダイスゲームを思いつく。ところが、そこに行き着くまでの道程は、溜め息とむだ話の繰り返し。前日の二日酔いに苛まれながらもパブへ足を運んでは、つれづれに言葉を紡ぐ。紡ぐ作業に疲れては、小腹が空いたとピザ屋へ入り、なにかしないといけないと重い腰を上げたかと思えば、注文したピザとビールをビニール袋に入れて公園をぶらぶらする。ぶらぶらしすぎて、温くなったビールと凝固したチーズに小さな不幸を感じながら、たむろする若者と談笑するも、途切れる会話にどうも落ち着かない。ヘンニネンのせっかくの新しい靴もどしゃぶりの雨に濡れ、雨よけに立ち寄ったパブは落雷のために停電する始末。気をとりなおして道路上で痴話喧嘩する夫婦の仲介を買ってでても、逆に夫婦のはけ口になってしまう。なんたる逆境の連続。当初の目的であったダイスゲームは、いつになったらできることやら。

遅々としながら、抗いながら、なんとか意味ある一日を過ごそうとする無意味なくらいの一途な姿に、じわじわとユーモアが湧いてきます。330ページにわたってつらつらと語られる三人の思いは、フィンランドの内紛後を生きぬこうとする民衆の姿を描いた19世紀初頭の文豪ヨエル・レフトネンの傑作『プトキノトコ(Putkinotko)』(1919-20)の主人公ユータス・カクリアイネンを想起させます。あるいは、脱力的に躓きながら、周りの環境に大いに揺さぶられながらも幸せにむかって進んでゆくひたむきさは、アキ・カウリスマキの映画世界をも思い起こさせます。

その反復的な表現や実りのない会話から、「サミュエル・ベケットの『ゴドーを待ちながら』のような語り、ジェームス・ジョイスの『ユリシーズ』以上の詳細な記述」(2004年9月4日付 ヘルシンギン・サノマット紙 アンッティ・マヤンデル評)と高く評価されたこの作品は、2004年度カレヴィ・ヤンッティ賞を受賞し、フィンランディア賞候補作となりました。

【抜粋訳: p.13-15】

「なあ、ヘンニネン」

ミータリアンはそう声をかけると席についた。できるだけ存在感をうすっぺらくしようと必死だ。

ミータリアンと呼ばれている理由は、ミートパイやらピザやら白身魚のフライの衣やら、とにかく脂っこいものが好きだからだ。こちらが圧倒されるくらいの健啖家なのに、ちっとも太らない。

(・・・)

ヘンニネンはヘンニネン。なぜなら名字がヘンニネンだからだ。 (・・・)

三人はなにも言わずにじっと座っている。微妙なラッシュアワーも一段落しはじめ、商品がぞくぞくと通り過ぎてゆく。アイスクリーム、ビール、文房具、荷台いっぱいの汚れた古着。角を曲がったところにある酒屋も店を開けた。強くなる陽射しのなかで濃密になってゆく空気。そこから最初にびんびん伝ってくるのは、大地を叩きながらぶつかり合う豪快な酒瓶の音。

「さあ」と、元帥が口を開いてみる。

「さあって、なんだよ」と、ミータリアン。

「さあってさあだよ。おれはしらねぇ」

「さあ、さあ」と、ヘンニネンは、頭からストッキングをかぶったような、父親のような表情をふくれっつらに浮かべると、フンフンと言いはじめた。

文/訳 末延弘子 ミッコ・リンミネン著『男3人物語』(2004)より


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