KIRJOJEN PUUTARHA
フィンランド文学情報サイト

 

 tunnus おすすめ作品

Möbiuksen maa    原書名:  Möbiuksen maa
 (メビウスの国)
 作者名:  Johanna Sinisalo, 1958~
 ヨハンナ・シニサロ
 出版社 / 年:  TEOS / 2010
 ページ数:  155
 ISBN:  9789518513240
 分類:  児童小説
 備考:  Kädettömät kuninkaat

【要約】

 八歳の女の子ピーは一人寂しく夏休みを迎えました。友だちのサンナが引っ越し、サンナと作った秘密基地は誰かに壊され、年の離れた姉の二人はすっかり大人に見えて、ピーとは遊んでくれそうにありません。しょんぼりと歩いていると、ごみ置き場でいっぷう変わったブレスレットを見つけました。ブレスレットは紫を帯び、金銅色や灰色の縞模様が入っていました。ピーがブレスレットに見入っていると、さらにいっぷう変わった猫に出会いました。ストロボのように白黒に明滅する猫は、そこに存在しているのにそこにはいないチェシャ猫のようでした。猫は、シュレディンガーの猫と名乗りました。シュレディンガーの猫に促され、ブレスレットをはめた途端、同時に存在するもう一つの世界リンクラに迷いこんでしまいました。

 リンクラの景色はブレスレットの模様そのもので、そこには得体の知れない生物が住んでいました。生死を繰り返すアザラシのようなトポを水先案内人に、歩く丘に乗ってリンクラを移動し、アメーバのようにつかみどころのないノイヌーッティやハリネズミのようにトゲの生えたミミズに出会いました。どの住人も「外」という敵を怖がっていて、ピーに「外」を説得してリンクラを救ってほしいと言うのでした。

 旅するうちにリンクラのことがわかってくると、ピーは「外」も「内」も等しく同じでちっとも怖くないことに気づきました。ピーはブレスレットをひねって両端を繋いではめ直しました。すると、リンクラは「外」も「内」も区別のない一つのメビウスの国になりました。恐怖を取り除いたピーはブレスレットを外して、もとの世界の自分の部屋に戻ります。もとの世界では、まだ一日も経っていませんでした。翌朝、サンナと入れ替わって引っ越してきたシーリと出会い、ピーは新たな友だちの予感に胸を躍らせました。

 もう一つの世界のことが明らかになるたびに、ピーは強く賢く自分らしくなっていきました。「想像できるものはすべて存在する」とシュレディンガーの猫の言うとおり、自分の内には計り知れないあらゆることが秘められていることを知る一冊です。

文 末延弘子 ヨハンナ・シニサロ著『メビウスの国』(2010)より


おすすめ作品の目次へ ▲このページのトップへもどる