KIRJOJEN PUUTARHA
フィンランド文学情報サイト

 

 tunnus おすすめ作品

Puhelias Elias    原書名:  Puhelias Elias
 (エリアスの赤い糸)
 作者名:  Essi Kummu, 1977~
 エッシ・クンム
 出版社 / 年:  Tammi / 2012
 ページ数:  44
 ISBN:  9513166759
 分類:  絵本
 備考:  

【要約】

 秋をまえに、お母さんと親友のプリートを海の向こうに残して、小学一年生のエリアスはお父さんと妹のインケリと町で新しい生活を始めました。おしゃべりだったエリアスは、しゃべらない子になりました。空を群れて飛ぶカラスを眺めては別れてしまった二人を恋しく思い、建物から漂うスープや焼きたてのパンの匂いにお母さんを思いました。雨上がりの帰り道、エリアスは海が見たくて港に出ました。海なら、目に見えない赤い糸のメッセージが伝わっていくと思ったのです。お父さんがかつて読んでくれた中国の童話には、望まず離ればなれになった大切な人を繋ぐ、目に見えない赤い糸があると書いてありました。エリアスは二つの家を行き来することになりました。小学生になって初めての夏休みに、エリアスはお母さんの家に帰りました。親友のプリートと再会したエリアスは、すこしずつしゃべり始めました。

 両親の離婚と友人との別れがもたらした変化を、静かに丁寧に呼吸して、エリアスは内側の世界と折り合いをつけていく。2012年度フィンランディア・ジュニア賞候補作。

【抜粋訳】

 今日は宿題がひとつもでませんでした。リュックは軽く、雨上がりの道は濡れていました。エリアスは、水たまりをよけずに歩きました。足が濡れてもそこを歩いたのは、水たまりがエリアスの道だったからです。
 水たまりをのぞきこむと、雲の切れ間から射してくる太陽が映りこんでいました。エリアスは、妹のインケリのように、大きな水たまりのなかに立ちました。
(ぼくはもう学校にも行って、一人で帰るようになったのに、こんなことしてる)
 エリアスは海にでたくて港をまわって帰ろうとおもいました。
 いつもの道からそれると家まで帰れなくなる、とお父さんには言われていました。靴下は、水たまりに入ったせいでぐっしょり濡れていました。エリアスにとって、回り道をすることはちっとも危険なことではありませんでした。むしろ、海のはずれから目に見えない赤い糸のメッセージがもっとよく伝わると信じていました。

文/訳 末延弘子 エッシ・クンム著『エリアスの赤い糸』(2012)より


おすすめ作品の目次へ ▲このページのトップへもどる